昨年、4年ぶりに短編演劇祭のチャンピオンに返り咲いた、上田龍成(以下、上田くん)率いる演劇ユニット「星くずロンリネス」。全国大会、アジア大会への参加経験を持つが、チャンピオンの防衛に成功した経験はない。今年の教文演劇フェスティバル(以下、演フェス)では、「短編演劇祭(以下、短編)」と「グランド・チャンピオン・ステージ(以下、グランド)」の両方に参加し、短編では初防衛を、グランドでは「世代交代」を狙って演フェスに挑む、と意気込む上田くんに話を聞いた。
上田龍成氏
●壇上での発言の「本意」
2014年に『キンチョーム -I Wanna Be Your Boyfriend-』で初めて優勝しました。昨年は2回目の優勝で、その表彰式で「来年はベテラン勢も出て」と言いました(マサコ注:〈前編〉を参照)。確かにそう言いましたけど、実は「短編で一緒に戦いたい。台本審査に応募して、本選に出てきて」という意味でした。というのも、最近は参加劇団に道外勢が増えたし、札幌も若手ばかり。何だかパッとしないイベントになっているなぁと感じていたので、「ベテランの人たちも盛り上げてくださいよ」と。だけど、ふたを開けたら教文側の構想が、グランドの新設になっていました。参加が決まったのは、今回の台本審査員が所属する、劇団怪獣無法地帯、イレブンナイン、yhs。…たしかにベテラン勢ですよね。これはもう、言ったからには自分も出なきゃいけないなと思いました。
でも、両方に出ることが決まった時点で、どう考えてもハンデありすぎなんですよ。他の劇団は一つの作品に集中できるけど、星くずは2作品を同時に稽古しなくちゃいけない。いやー、大変です。
●演劇とコントのはざまで
今回グランドで上演する『キンチョーム』は、脚本を修正しています。短編チャンピオンとして『キンチョーム』で出場した短編演劇の全国大会「劇王天下統一大会2015」の審査員に、鴻上尚史さん(マサコ注:日本劇団協議会・日本演出者協会の理事。個人的には『ハッシャ・バイ』と『トランス』が好きです)と渡辺えりさん(マサコ注:主演した土曜ワイド劇場『100の資格を持つ女』シリーズは名作です)がいました。渡辺さんに「とにかく笑った。けれど、あなたのところはコントだよね」と。「これは演劇の大会だから点数を低くした」と指摘されました。台本や演出について他にも言われたことがあって、そのアドバイスを参考に修正しています(マサコ注:その修正バージョンは6月のオムニバス公演で披露)。だから、渡辺さんがグランドのゲストコメンテーターもやると聞いて、「すげぇタイミングだな」って。これはもう『キンチョーム』やらなきゃなって決めました。
札幌でも全国でも、星くずの作品は「コントっぽい」と言われることが多いです。自分としては演劇だと思って作っているんですけどね。渡辺さんの話に戻りますけど、『キンチョーム』への講評で「説明し過ぎ」と言われました。そういえば場面の状況を観客席に向かって説明するシーンが多いな、と。そういう部分でも今回の『キンチョーム』は、2014年バージョンとはひと味違うと思います。
●札幌勢に残ってもらいたいと思った
今回、短編の台本審査を通過したのは札幌2、道外2。願望としては、札幌勢がもっと残ってほしかった。周りに「短編に応募した」という人が何人かいましたけど、残念ながら台本審査で全滅しました。他の地域の短編演劇の大会って、地元での活動が参加条件になっているところが多いようで、道外から来るのって教文くらい。だからなおさら、札幌の短編というイベントを盛り上げるためにも、「札幌勢、頑張ってよ」って思いました。
短編で上演する『白衣の女王-ホワイトクイーン-』は、架空の医療漫画にまつわる3つの話です。この作品は元々、2015年の「遊戯祭15『手塚治虫に告ぐ』」でやろうと思った話です。その時は台本を書ききれなくて、ネタだけは温め続けていました。ようやく出せる、っていう気分です。一応、コメディーのつもりで書いたんですけど、稽古で結構真面目に観ちゃうんですよね。その度、「…いや、これコメディーだよね」って我に返っています。
●フラッシュバックする「東海連合」
話が前後しますけど、星くずが初の防衛を懸けた2015年の短編に、「刺客」として送り込まれたのが、日本劇作家協会東海支部でつくる「東海連合」です。もうね、決勝でズタボロにやられたんですよ(マサコ注:上演作品は中学生のプールサイドでの対話でつむぐ『怪獣日和』。台本は「劇団さよなら」(名古屋)の長谷川彩、演出は「劇団あおきりみかん」(同)の鹿目由紀。本物の中学生が出演したことも注目を集め、審査員と観客から127票を得て、ぶっちぎりの優勝。舞台上で水をかぶる演出に驚いた人も多かったはず)。その後、現場が一緒になることが多くて、その度に『海獣日和』を観ては「ああ、いい作品だなぁ」って感動しちゃって。最近、あの防衛戦で負けた時の記憶がフラッシュバックして困ってます。
フラッシュバックはさておき、短編に出たことで札幌の人に星くずの存在を知ってもらえました。全国大会では、同世代の劇団や劇作家に出会えたこと、今回の鴻上さんや渡辺さんを含め、名が知られている実力派の審査員に出会えたことがめちゃくちゃ大きい。審査員には講評でキツイことを言われるけれど、説得力のある言葉を「ああ、そうか」と素直に受け止めて。きっとそれが今の力になっています。
がっかりしまくる上田龍成(右から3人目)。
●本番一発勝負で勝つ
短編で優勝した2014年は、自分にとってキーとなった年でした。「札幌オーギリング」を旗揚げし、劇団としても演劇のイベントにも呼ばれるようになった。ただ、周りは変わっていきました。大学を卒業して働いて数年経った時、身近なところで演劇をやっていた人が次々辞めていった。時々、「演劇やりながら働くって大変だな」と思いましたけど、振り返れば「俺、やれてんじゃない?」って。もちろん会社や上司が応援してくれている部分も大きいですけどね。
今回の短編は、しっかりと防衛したい。副賞の教文上演権が2020年なんですよ。ちょうど、星くず結成10年目の年。短編自体が本番一発勝負に変わったことで楽勝とは思えませんけど、これは勝たねばならないな、と気合が入っています。
うえだ・りゅうせい。1988年、札幌生まれ。北海学園大演劇研究会在籍中に、演劇ユニット「星くずロンリネス」結成。会社員のかたわら、演劇公演や大喜利対戦ライブ「札幌オーギリング」を開催(2017年公演を一区切りとして休止)。札幌短編演劇祭の予選・本選参加は5回目。そのうち優勝2回。
text by マサコさん