上質の井戸端会議 アルカス演劇サークル✕吟ムツの会『マグノリアの花たち』

このお芝居は1980年代のアメリカ南部のとある町にある美容院を舞台に、美容院経営者トゥルービー(柴田静香:40歳くらい)、美容院のアシスタントであるアネル(みや:19歳)、元町長夫人クレイリー(ナガムツ:66歳くらい)、お金持ちの老婦人ウィーザー(高野吟子:66歳くらい)、町一番の美人シェルビー(小林泉水:25歳)、その母マリン(大橋千絵:50歳くらい)という6人の女性によって進められる(年齢はリーフレットによる)。出演者という点でいえば、この6人以外に、ラジオDJ(甲斐田貴之:FM長崎)。声だけの出演で唯一の男性がラジオDJだった。

2部構成の第一幕前半はシェルビーの結婚準備と、この町に2週間前にやってきたという訳ありのアネルの素性についての詮索が話の中心。後半は同じ年(1987年)のクリスマス前日。モンローという町に嫁いだシェルビーが帰省して、クリスマスプレゼントと結婚話を中心にして話が進む。第二幕は、第一幕後半から1年半後の1989年6月の話で、シェルビーが、ある「報告」を抱えて帰省したときが話の中心である。後半はその年の11月の話である。

このお芝居は美容院にやってきた女性たちの、連続した日々の中の「ある日」の会話によって進められる。他愛もない日常の会話だが、そこには長く暮らす気心知れたご近所さん同士の人間関係が垣間見える。結婚したシェルビーの「その後」は第二幕のヤマ場であるが、それもやっぱり女性たちの日常の中の「ある日」の会話であることには違いがない。

このお芝居で最初に驚いたことは、怪優ナガムツさんだった。これまでに何度かナガムツさんが出演していたお芝居を観たことがあるが、これまでとは明らかにキャラクターが変わっていた。そして実に良かった。ナガムツさんの別の一面を知った感じだ。逆にいえば、今回初めてナガムツさんのお芝居を観た人が、別の機会に観ればきっと驚くだろう(やっぱり怪優だ)。

舞台装置もとても素晴らしかった。美容院そのものを舞台上に作り込んでいたので、役者さんたちの動きが活きていたと思う。また美容院が舞台ということなので、当然、髪の毛をいじるシーンが多くなる。折に触れて誰かの髪をセットしていたが、柴田さんや、みやさんはさりげなく、そして本職のように手を動かしていたことに驚いたし好感が持てた。このお二人は佐世保(長崎)にある劇団楽園天国に所属する役者さん。柴田さんは美容院の経営者然としていたし、みやさんは、どこか得体の知れないキャラクターの持ち主であるように感じた(佐世保の怪優かも)。
もちろん、6人全員が主役なので、それぞれに個性的で役割をうまく演じていた。

観たあとの感想は、チラシに書いてあったリード文に尽きるということであった。

「すべての女性たちに贈る物語」

まさに、女性の感じ方が台詞に現れ、女性同士の人間関係が見事に表現されていた。
シェルビーが抱える「身体の秘密」が明かされ、やがてその顛末が明らかにされる第二幕では会場からすすり泣く声も聞こえてきた(観客の9割方は女性だった)。しかし私は泣けなかった。もちろん琴線に触れる内容であったことは間違いないが、女性と男の感じ方の違いがあると思うし、もしここに、シェルビーの父親が登場し、父親の視線で娘を語る場面があれば、もう少し違った感じ方ができたかもしれない。

そしてもうひとつ。 これは演出家が狙ったことなのかもしれないが、台詞が、終始、アメリカ映画の吹き替えのように聞こえていた。アメリカのお芝居の翻訳だし、舞台が1980年代のアメリカであるし、そこに住む女性たち(アメリカ南部の女性は変な帽子ををかぶり泥まみれらしい)の話を日本語で日本人が演じているので、映画の吹き替えのようになってもおかしくはない。ただ、欲をいえば、もう少し日本的であっても良かったのではないだろうか。たとえば、「日本のどこかの町の美容院での日常」というように翻案しても十分に成立するストーリーだと思う。
また、途中でナガムツさんに落語風の演技を与えた演出には賛否両論があるだろうが(なくてもいいという批評)、個人的にはお芝居のアクセントとしてあの程度の遊び心があったほうがいいと感じた(ナガムツさんだからできる)。

お芝居を観ながら、昭和時代の井戸端会議を連想していた。濃密な人間関係があったからこそできた井戸端会議。1980年代のアメリカ南部もそうだったと気付かせてくれたし、こういった喜怒哀楽を共有できる人間関係が人生を楽しくするのではないだろうか。

最後に、29日19時の回は満員で追加の椅子も準備された。それだけ前評判が高いお芝居であったわけだ。そんなお芝居を観ることができて嬉しく思う。 佐世保の演劇人と札幌の演劇人が共同で作り上げたこのお芝居は、今回の札幌公演に続いて、10月には佐世保でも公演するとのこと。 札幌と佐世保では見方・感じ方が異なるのだろうか。

2018年9月29日19時 ターミナルプラザことにPATOS
上演時間:2時間10分(途中10分の休憩あり)

投稿者:熊喰人(50代)

text by 招待企画ゲスト

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