マイナスにされがちな演劇要素をプラスにした空宙空地『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』

「演劇ならではの魅力とは?」と聞かれるとなかなか答えられない。マイナス点なら上げやすいのに。そんな魅力と呼ばれる部分とマイナス点として聞こえるものを通して空宙空地『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』について書いてみたい。なぜかというと、この公演、そういった魅力やマイナス点をうまく利用した公演だと思えたからだ。

魅力としてよく聞くのは「眼の前に実際に人がいて演じている」というものだ。しかし人が目の前で演じていることに気恥ずかしさや圧迫感を感じてしまいマイナスになる場合もある。そういったものは感じないとしても、映像作品ならズームも可能で役者の表情がよくわかる。しかし舞台ではズームはできない(オペラグラスでも持ち込めば可能ではあるが)。視点を自由にできる、映像と違って好きなところを見れる良さはあるが、そもそもそんなに見せたいところって1場面でそこらじゅうにあるの?とも思うだろう。

空宙空地『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』ではそれを演技とかではなく、演出で楽しむことができる。シンプルな舞台セットが舞台上動き回るのだけど、その動きに合わせて人物が現れ、物語の時間が大きく過ぎ去っていたりする。それを目の前で見ていると単純に驚くし「うわっ近づいてきた!」とかでゾクゾクしたりする。それに見慣れてくると次に人物が現れたとき時間が過ぎ去ってるのではないか、とドキドキしてしまう。映像作品とは違い眼の前の物理的な空間でそれが起きることでしか感じられない感覚ではないだろうか。おそらくこの公演を映像で見ても感じられないと思う。

さて、「時間が大きく過ぎ去る」とか「時間が過ぎ去ってる」とか書いたのが、そこがこの舞台の魅力のもう1点であり、演劇でよく聞くマイナス点だ。マイナス点を書くと「子どもの役を大人がやってる」「物語上、何日も経っているのに衣装もセットもそのままで時間が経った気がしない」みたいなものだ。

この物語もいきなり大人の女性が無邪気な子ども役として登場する。駄々のこねっぷりも相当なものだ。登場当初この女性は障害を持った大人の女性かと思ったくらいだ。それが子どもだと判明した時点で思ったのは「子役って手配しづらいからしょうがないよね。」だ。

しかしそれはほんの一瞬で間違いだとわかった。彼女はすぐ小学生になったのだ。そしてそのすぐ後には反抗期に、あれよあれよという間に彼女は就職して一人暮らしを始めて家を出てしまった。主人公である母は、気づけば過ぎ去る時間に振り落とされそうになりながらも人生を生きていく。物語の後半では娘が母となり、あれほど否定していた母の生き方をなぞるように人生を流されて生きていく。彼女は「手配できなかった子役の代わり」ではなく彼女でなければあの役はできないということがよくわかった。

そのように物語ではどんどん時間が過ぎていく。じゃあ登場人物はそれに合わせて衣装を変えたり、髪を白くしたりするかというとそんなことは一切ない。しかし一切ないことが逆に「時間はどんどん過ぎ去っていく」ことを強烈に感じさせる。

途中物語としてあまり重要ではないパート先でのうざい同僚の会話が丹念に描かれている。そしてそれを主人公は「家族といる時間は一瞬ですぎるのに、あなた達との会話はすごい長く感じる。」と言う。まさにそのとおり!アンディ・ウォーホールが制作した初期の映画『エンパイア』は8時間エンパイアステートビルを固定カメラで撮影した映画で、何が面白いんだと思っていたら、とある評論家が「この映画を見ることで人は「時間」を感じられることができる」と言っていて(作家の意図がどうであれ)なるほどと思った。今回の公演でいうところのパート先での会話はまさにそうだ。家族との会話はもっと丹念に見たいくらいなのにサクサク進む。逆にパート先の会話は最初から最後まで丹念に見せられる。おかげで家族と過ごす時間がとても有意義でだからこそ一瞬で過ぎ去っていくのだと強く感じる。

物語自体難しいことは一切なく、笑えるシーンもある。気軽に楽しめる上に考えさせられる部分もたぶんにある。そして演劇のマイナス点をすべてプラス点に変えたような物語と演出。とても楽しませていただきました。

ついでにまさこさんが同作品について「札幌俳優でやるならどの役者」と書いていたので、じゃあ僕も書いてみる。

母=山村素絵、娘=一嶋琉以、夫=能登英輔、娘の夫=熊谷嶺、オバサン2人=小島達子・ナガムツ、娘の子=山科連太郎。

札幌公演ではもう1名キャストがいたのですが、まさこさんと揃えてみました。なるべく被らないようにと思いましたがナガムツさんは外せなかった。

◆ゲネプロにて

text by カジタシノブ

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