実力ある劇団:空宙空地『轟音、つぶやくよううたう、うたう彼女は』

偉くもないし、立派でもない。特に成し遂げたこともない。折しもテレビの羽生結弦の美しい4回転ジャンプを見ながら振り返る、小さな小さな我が人生。革命家の如き意志もなく、芸術家の如き情熱もなく、尊敬もされず、軽蔑もされず。それでも笑って、法も犯さず、働きに出る我らの偉大なる社会性よ。そんな普通な日本人、特に女性たちは、この作品が描く「流され感」「おいてきぼり感」が胸に迫るのではなかろうか。

しかしこの作品が描くのは悲観的な人生論では全くないし、ユーモア溢れるコメディなのだから、さじ加減が上手いと言えよう。母娘の会話も実に現実的、等身大で、ウンウンそだねーと共感したり、クスッと笑えたり、そしてラストでは涙ぐんでしまう。少女時代の「雛人形」の伏線が、ラストシーンに大きく活きてくる。家族でも、友人でも、誰かを愛した・・・たとえそれが形で表せていなくても、もっとこうしてあげたかったという後悔であっても、その誰かへの思いが、この小さな人生に価値を与えてくれる。この名もなき家族がそう証明している。(本当に名前はなかった。)

空宙空地という劇団は初めてだが、おぐりまさこさんの独り芝居を2作品ほど札幌で観て、すっかりファンになったのだった。安心して観ていられるしっかりとした演技力と落ち着きがある実力派女優だ。関戸哲也氏による本作品の舞台展開は、舞台上を滑らせる数枚の壁を巧みに使って、人物の登場が速やか且つドラマチック。特に踏切のシーンでは、タイトル通りの轟音とともにドキドキする展開となる。どの俳優さんもそれぞれ文句なくいい!発声、セリフの間、お笑い、いずれも小気味好い。願わくば、TGR大賞をとって演劇シーズンで再演してもらいたい。

余談。終演後は、おぐり氏、関戸氏、と前座?短編「雨の日はジョンレノンと」を好演したイレブンナインの明 逸人氏と澤田未来氏の4名のトークとともに、劇団のスポンサー、白瀧酒造のお酒試飲会が行われた。トークを聞かずに帰るつもりが、つい感動のあまり感想アンケートをぽつぽつ書いていると出遅れたので、この際、柿ピーと共にお酒をいただく。娘役の米山真理さんオススメの秋限定の赤い瓶のやつをいただいた。フルーティで美味しかったとです。ちびちびとお酒を呑みつつ聞いていると、名古屋からのおぐり氏と関戸氏が、やはり「札幌の観客はやさしい、やり易い」ということを話していた。だからこそ、札幌の劇団にはぜひどんどん他都市の観客に挑んでほしい。

2018年11月3日17:00 コンカリーニョにて観劇。

text by やすみん

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