4か月前の7月、同じ芝居をシアターZOO(以下ZOO)で見た。今回「座・れら14.5回公演」と銘打っている所以だ。副都心新さっぽろにあるサンピアザ劇場(以下サンピアザ)は250席とZOOの2.5倍ある。座席をテープで区切り、上手、下手と後方の座席は使わない仕様にしていた。さらにZOOはステージを見下ろし、サンピアザは見上げる構造だ。サンピアザは映画館として建てられた歴史がある。
この芝居は見上げるより、見下ろすほうがいい。別役の世界は覗きこむのがふさわしい。しかし二人芝居としてわずか4か月であるが進化を感じた。
コミュニケーション環境が不全の一人暮らしの男の注文でレンタル家族のような女、トシコが事務所から派遣される。ともに中年といった役どころか。男は誰かと話をしたいのだが家の外に出てまではできないようだ。トシコはマニュアルにしたがいポットに持参の紅茶をすすめたり、掃除をしながら話相手になろうとする。しかし、男はひたすら話をすることを求める。トシコを前にして男は雄弁だ。ずっと眠っていないという。
ZOOで女と男はテーブルをはさんではす向かいに座っていた。下手、客席正面向きにトシコ。上手、背中を見せて男。劇中、この座り位置はほとんど不動という演出だった。
サンピアザで女の座り位置は変わらなかったが男は上手、テーブルの端に客に対して横座りとなった。何事も世界につながりたい男を演じる信山E紘希の茫洋とした表情が覗えて嬉しかった。
男は雄弁でトシコがなぜトシコなのか、紅茶に入れる角砂糖の個数について世界はどう説明するのか聞きたい、などと哲学言辞を続ける。対して女は日常言語を放出するばかりで話が噛み合わない。二人は男が欲しいという「チェコスロバキア人とエチオピア人が会話するレコード」を現前させたのである。
ZOOで後ろ向きに座る男の白シャツの背中が日常を撥ね返す強固な壁のように見えた。この意匠も味わい深かくはあった。サンピアザで横向きに座る男の表情が見えることにより、女と男のダイアローグが際立ってきた。
身勝手を言い連ねる男に、「私の夫もそうっだった」と女が言い放った瞬間から二人の立場が逆転する。このシーン、女を演じる小沼なつきは鮮やかだった。日常の女のほうが世界になった。
ラスト近く、女が男の部屋で探し出した、紙工作の家や樹木や電柱は男が喪失した母性や家郷を想起させた。木枯らしが吹きすさぶ心象に灯を点す風景である。
世界に日常がつながっているのではなく日常に世界がつながっているのだ、と思う。我々一人ひとりに向かって世界がつながっているのだ。
小沼なつき×信山E紘希『眠っちゃいけない子守唄』
2018年11月11日(日)14:00 サンピアザ劇場
投稿者:有田英宗
text by 有田英宗(ゲスト投稿)