the 別役!…タイトルに大々的に表記されたその名前の人物は、演劇に詳しくない身としては何も心に響かない。「知らないの!?」と驚かれるかもしれないが、知らないものはしょうがない。別役実について知ってることと言えばイラストレーターのべつやくれいさんのお父上だということくらいだ。
名前を知ってるのだから事前に調べれば自ずとわかりそうなものだが今回あえて調べず観劇した。開演前にパンフを読んで初めて別役実が不条理演劇の第一人者だと知った。知ったところで不条理演劇も見たことがない。不条理なんだろうなぁ、くらいな気分だ。そんなレベルの人が書いた感想だということを念頭においてお読みいただきたい。
全4本ある演目のうち観ることができたのは2本。どちらも男女1組によって行われる会話劇だ。何か大きく物語が展開するわけでもなく、微妙に噛み合わない会話を終始繰り広げている。やりとりは成立しているが、どこかチグハグでそれぞれの気持ちは相手に伝わりきらない。
どちらの物語もそれなりのエンディングは迎えるのだが、そのエンディングさえ強引に詩的な世界へ連れていかれたようで、必然とは感じがたいものだった。しかしなんとなくのカタルシスは感じることができたので最後までクエスチョンマークで終わるよりは、若干すっきりした終わりだった。
観ている途中で、この会話が何らかの暗喩を含んでるのかもしれないと思った。1本目に見た『眠っちゃいけない子守唄』が演出家と観客の会話のよう感じたからだ。が、そういった意味探しは途中でやめた。それをするとつまらなく感じてしまうかもしれないと思ったからだ。そう思って見ていると、このチグハグ会話が妙に面白く感じてくる。
2本目『星の時間』を見ていたあたりで、これはデペイズマンによる会話だと思えるようになってきた。デペイズマンとは美術の世界におけるシュールレアリズムの手法の1つで、あり得ない組み合わせによって驚きを与えたり途方に暮れさせたりする手法だ。原点と言われている詩が非常にわかりやすい。
「解剖台の上でのミシンと蝙蝠傘の不意の出会いのように美しい。」
絵画ではそこに存在するだけなのだが、演劇となるとそこコミュニケーションが発生する。原点の詩で言えば解剖台の上でたまたま出会ったミシンと蝙蝠傘が会話しているようなものだ。
観劇した作品の登場人物たちは双方日本語だし相手の言ってることを理解する気はあるようなので会話は一応成立する。しかしそれがチグハグになってしまう理由も観ているとなんとなくわかってくる。
勿論そこに居合わせたのは理由がある。どちらの物語にも片方の登場人物は偶発的な理由でそこにやってくる。話し相手として派遣されてきていたり(『眠っちゃいけない子守唄』)、猫を探し歩いていたり(『星の時間』)だ。理由も目的もはっきりしている。かたや派遣を依頼してきた人(『眠っちゃいけない子守唄』)、レストランを開く人(『星の時間』)はそもそもその場にいる理由、そのような行動を取っている目的さえ多くを話してくれない。そんな人との会話に巻き込まれた側は、わずかな情報を頼りになんとか理解を深めようとするが、前提が違う&そもそもの部分を話してくれないために会話はチグハグなまま後者のペースで進んでいってしまう。あたかも別の物語から連れてこられたような2人の会話なのだ。
そこには可笑しさや独特の空気感が感じられるて、それなりに楽しい。チグハグなままでも進んでいく会話は妙に先が気になり、途中で飽きるということもない。ただ、通じ合っていないコミュニケーションは、ややもすると同じことの堂々巡りになってしまったりするので、人によっては苛立ちを覚えるのではないだろうか。事実『星の時間』でフクダトモコさんが演じる女性には苛立ちを感じてしまった。でもそれはもしかしたら演出や役者の見事さなのかもしれないし、未熟さなのかもしれない(正解がわからない)。
今回は計4作品を上演したようだが、見られなかった2作品も男性×女性の2人芝居のようだ。となると観覧した2作品のようにデペイズマンな2人のやり取りなのだろうか。この手法はいくつものパターンを生み出せそうだ。すぐにでも破綻してしまいそうな2人にアレだけの会話をさせる事ができる人はそうそういないだろう。そこが別役実の魅力だとしたら、それを理解する前に2作品観てしまったため、両作品ともに同じ手法を使ったものと感じてしまい、後半はやや食傷気味だった。
さて、最初に書いたように私は別役実は初見である。ゆえに座・れらさんによるものがイコール別役実になっている。座・れらさんによる別役実がとても楽しいものだったのか、あまり面白くないものだったのかは正直わからないが、少なくとも別役実の他の作品も見てみたくなったのは確かだ。楽しみ方含め別の角度からも観てみたくなったのだ。それはひとえに演出による力が大きかったのではないかと想像している。が、それもまた正解がわからない。正解などないのかもしれないが、とりあえず他の人が演出した別役実作品を観て、改めて座・れらさんによる別役実を考えてみたい。
text by kazita