役者がうまいから成立したお芝居 札幌文化芸術劇場オープニングシリーズ『ゴドーを待ちながら』

いうまでもなく不条理劇なので、それなりに覚悟を決めて劇場に入った。そして観た後に最初に思ったことは『役者がうまいから成立したお芝居だったな』ということだった。

第一幕。中央に木がある田舎の一本道で、いつ現れるか、それが誰なのかも定かではないゴドーを待つ二人の浮浪者、ウラディミール(納谷真大)とエストラゴン(斎藤歩)。待ち続けながら暇つぶしに興じる。そこにポッツォ(高田恵篤)と召使いラッキー(福士惠二)が通りかかる。ラッキーは首に縄を巻かれ、「椅子を持ってこい」「バスケットを持ってこい」とポッツォの命令のままに動かされる。「考えろ」と命令されたラッキーは長い長い話を始める。二人が去った後で、ゴドーの使者である少年(鶴田茉夕)が現れ、「ゴドーは今日は来ない。でも明日は来る」と告げる。
そして第二幕。葉を付けた木のまわりにやってきたウラディミールとエストラゴン。再びゴドーが来るのを待ちながら暇つぶし。そこにまたポッツォとラッキーが現れるが、ポッツォは目が見えず、ラッキーは口がきけない状態だった。そしてまた少年がやってきて「ゴドーは今日は来ない。でも明日は来る。」

つまりは、第一幕と第二幕は同じことの繰り返しだ。しかし、第一幕で幹と枝しかなかった木に葉が生えていたし、ポッツォとラッキーは体の一部が不自由になっていた。確実に時間が進んでいるように思われるのだが、ウラディミールとエストラゴンの時間だけは空回りしている。しかも記憶も定かではない。
二人の浮浪者は同じことを繰り返しながら永遠に暇つぶしに興じていくことを暗示している。終わりの見えない中で会話や出来事が繰り返される。これは絶望的である。ここに不条理さがある。

舞台はスタジオを斜めに区切る形で作られ、その両側に客席が作られていた。どちらからでも見える形だった。このような舞台配置は一般の劇場では作ることができない。アイディアだなあと感じ入った。

ところで、4人の登場人物の名前にちょっと引っかかった。『フランスの作家なのにウラディミールといったり、ラッキーといったり、どういう意味があるのだろう』と気になった。ウラディミールといえばロシア人の名前だ(ウラジミール・プーチンはあまりに有名)。ラッキーはいうまでもなくLucky。英語だ。エストラゴンはハーブの名前だが、フランス語らしい。ポッツォはいかにもイタリア語系で、調べてみると「井戸」や「良く」といった意味があるらしい。フランス語で書かれた劇なのに登場人物の名前はロシア、フランス、イタリア、英国風。どんな関係があるのかは分からないが、なかなか面白い命名だと感じた(ベケットはアイルランド出身でフランスの劇作家だそうだ)。

もうひとつはやっぱりゴドー(Godot)。当然フランス語にあるのだろうと思って調べてみると造語らしい。綴りにGot(神)があるので、「待っているのは神なのか」と思わせるが(事実、ウラディミールとエストラゴンの話の中で聖書を読んだことがあるかという掛け合いがある)、本当にゴドーが神なのかどうかは分からない。

原作は読んでいないが、「暇つぶし」がひとつの見せ場なのだろう。斎藤さんと納谷さんの掛け合いは観ていて実に楽しかった。ひとつひとつ独立した何の脈絡もない話が延々と続き、そして話が少しずつ形を変えていくのだが、その話しっぷりと動作が面白かった。さすがである。だから飽きずに見続けることができたし、時間も短く感じた。

小道具である靴と帽子は重要な役割を持っていたように思う。冒頭、サイズの小さな靴を脱ごうとするエストラゴン(ここから芝居がスタートする)。そのまま脱ぎ捨てたにもかかわらず、次に履いたときにはぴったりのサイズになっていたのだが、靴を巡るウラディミールとエストラゴンの動作が実に面白かった。またラッキーが置いていった帽子をウラディミールとエストラゴンが交換する場面にも笑わせられた。
もっとも斎藤節・納谷節も随所に出ていて、脚本にあるのか、アドリブなのか分からない部分もたくさんあった(くしくも、『12人の怒れる男』でもこの二人がキャストされた回を観た)。
また、ポッツォを演じた高田さん、召使いラッキーを演じた福士さんも怖いぐらいの雰囲気を醸し出していた。とくに福士さんは異様なほどの気迫があった。4人の男がはじけ散るような強烈なお芝居をしていた中で、出番は短く2回しか登場しなかったが、少年役の鶴田さんが登場するとホッとさせられた。

永遠に続くと思われる「暇つぶし」を観て、何を感じるのか、どう解釈するのかは観ている者に委ねられているのだろう。
先に書いたが、やはり、うまい役者さんたちだからできるお芝居なのだ。
 
 
上演時間:1時間55分(途中10分の休憩あり)
2018年12月22日14時
札幌文化芸術劇場クリエイティブスタジオにて観劇

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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