やっぱりすごかった イレブンナイン『12人の怒れる男』

イレブンナイン「12人の怒れる男」をかでる2・7にて。
初演は観たけど、再演は観に行けなかったので、私にとっては待望の再演。最初は下手側の最前列、2回目は当日券だったので客席側の後方からの観劇となった。2回とも周囲に何席かの空席が。都合がつかなかったのかも知れないけど実にもったいない。
名作映画の舞台版なので、誰でも知っている話。映画と違うのは役者が常に観客の目に触れる場所にいること。12人それぞれの動きがあり主張がある中で、自分なりの視点を選択を出来る。ズームアップはできないけど、誰かを追いかける事も、全体を俯瞰する事も自由自在。
泣かせにくるような話ではないのだけど、所々で出てくる決めゼリフ的なものでは、やはりグッとくるものがある。あんなセリフを実際に言えたら気持ちいいだろうなとも思うし、言葉の責任を取らなきゃいけないのは大変だろうなとも。平塚さんの最後の大暴れにも涙。
議論で対立し、激論を交わしている人に注目してしまうけど、聞き手の反応も様々で興味深い。中央の机を挟んで、扇風機のある側と反対側にある椅子の両方に人がいると、何か対照的な反応をしたりするのかと身構えてしまったりもするし、実際そうだったりもする。
いろんなところで、有罪・無罪の判断とは別に対立が発生し、それが退場時まで尾を引いていく。対立は差別感情から発する深刻なものもあれば、些細なことから口論に発展した結果のわだかまりまで様々。対立が露わになった後の、当事者間のやりとりも興味深い。
10号はスラングのナンバーテンという言葉がピッタリくる最低の言動をする存在。育ちの良さそうな言葉遣いがより酷さを際立たせる。初演の時は演劇的なものだった周りの反応は、今回はあの場はああなるよなと思えるもの。そして場を締める河野さんがカッコ良かった。
2回目に観た舞台では、久保さんの言い間違いがあったけど、即座に別の陪審員から訂正が入り、久保さんもそれを受けて何事もなく進行。間違いはありうるので、間違えた時のリカバリーが大事なんだと再確認。まあ、演者としてはあまりあって欲しくない事だろうけど。
最前列で観た時は、若干下から見上げ、客席後方から観た時は全体を俯瞰する感じで、それぞれ三ツ沢球技場の最前列と最後列から見たような感じ(一部の人にしかわからない例え)。表情が見える人も違えば、セリフの聞こえ方も違うし、観る側の姿勢も変わってくる。
この舞台でいいなと思えるのは、舞台上の緊張感をそのまま共有しているように感じられる事。これはこの作品にあっているし、映像作品ではなかなか味わえない感覚だったりすると思う。
斎藤さんをまだ観てないし、もう一回観に行こうかな。

前回の感想から、3回ほど観たので、メモ的なものとして。エレキさんの10番が嫌な奴ぶりに磨きがかかってきた気がする。人が話している最中に、鉛筆で机を叩く、何かを言うとあからさまにせせら笑うと言うのが、ちょうど苛立つようなタイミングで入ってくる。
今まで気がついてなかっただけかもしれないけど、その他の人も苛立って足を踏み鳴らしたり、態度に出る様子が色々と。水津さんは、詰問する時に怒鳴るのではなく低い声相手に迫ったり、退場時のやりとりが少しコミカルなものになったり、変化をつけて来た気が。
あとは8番と6番の席替えが無くなったのが気がついたこと。どこに座ってもいいんだから、8番は空いている席に座ればいいのに、変な人だからわざわざ替わってもらうのかなと思っていたんですよね。
あと、能登さんが自分の言い間違いを冷静に訂正していたけど、内心は慌てていたんだろうな。

千秋楽を当日券で。なんと客席側の最前列。入場時に10号が5号にぶつかって5号がムッとしていたり、10号が鉛筆で机を叩くのを11号が止めたり、7号を座らせようと2号が服を引っ張るのがよく見えたけど、実験の時に8号に6号が何かしてたのを確認出来なかったのが残念。
しかし何回観ても飽きないなぁ。元々の話が面白いというのもあるけど、今回は最後の1回を除き観るたびにキャストが違ったり、同じ役の人でも何か変えていたりするし。話題の中心から外れた部分も見逃したくない芝居。またやって欲しいけど、難しいんだろうな。

以下、そのほかの感想を。

[裁判について]
冒頭の裁判官の声は柔らかく誠実そうで信頼のおけるもの。ただ必要な立証がなされていないあたりに、いい加減さを感じる。10号の言うように「あの界隈の連中」同士が起こした事件だから、警察や検察がやる気がなかったのかもしれないと思えてくる。陪審員の当初のスタンスも同じような感じだったから、裁判官を含めた裁判全体が、そういうものだったのかもしれない。

[1号]
冒頭で陪審員の意見を有罪に導くようなエピソードを披露してしまうあたり、実はけっこう迂闊な人なんじゃないかいう印象。10号との対立、というか一度ケチをつけられてからの職権を使った10号への嫌がらせが、怒りが収まってないんだなと納得させられる。

[2号]
優柔不断。味方と思える有力者にすり寄ろうとする。12人の中で一番身の回りにいそうなタイプだし、自分もそうなんじゃないかと思う。演者が3人いて、三者三様の表現だったけど、どれも捨てがたい魅力があった。

[3号]
有罪側の情緒面での指導者。自分の経験から偏見を持ち、それを世間一般に適用しようとするけど、自身でもそれが間違いだという事には気が付いている。ただそれを認めたくないので意地を張っているというのがわかる人。追いつめられて、どんどん感情的になっていくあたりで、観ていて気の毒になってくる。

[4号]
有罪側の理論的指導者。本人は是々非々の立場としているし、そう行動しているけど、検察の代弁者という恰好。議事進行に関することと10号の発言以外には、感情をあらわにせず、論理的な発言をしている印象。

[5号]
一人称は「俺」。育ちの悪い好青年。礼儀正しく振舞おうとしているけど、時々ボロが出る感じでしょうか。「あの界隈」と同じような境遇だったことから実体験に基づく発言が多い。証人役というところ。

[6号]
自分の役割がよくわかっていないように見え、ほかのメンバーにもそれを見透かされて軽く見られている感じ。「老人を敬え」というのは、9号に対するひどい態度に怒ったというものあるけど、自分も同様に少しは敬意を払えというのがあったんだろう。納谷さんのときは田舎の人のいいおじさんという雰囲気だったけど、斎藤さんのときは、うさん臭さをまとったような気が。

[7号]
深く考えていないだけで根はいい奴じゃないかと思える人。陪審としてではなく、野球場や酒場で会えば、楽しいやつという評価をされそう。

[8号]
正義の人のように見えるけど、無罪説に有利な話が出てくると、結構露骨に食いついてくるあたりに少し嫌らしさが感じられる。6号が納谷さんのときに、どこに座ってもいいと言われているのに、なぜか空いている席ではなく、6号の席を取り上げて座っているあたりで変な人物かもと思ってしまった。劇中の台詞でもあったけど、弁護士役。

[9号]
鋭い人物観察の人。無罪に変えた理由としてもっともらしい事を言っていたけど、本当の理由は本人が「老人が誤った証言をした理由として考えられる事」として話していたのと同じものなんだろう。実際、それまであまり相手にされなかったのが、罵声込みとはいえ、まともに相手にされるようになったのだから。

[10号]
偏見の塊のような人物だけど、元からそうだったのかどうか。工場経営でその階層の人間との付き合いが多いから、よく知っているという設定があったと思うけど、今回は特にその設定に触れていなかったような。最後の演説で「いい奴だって2、3人は知っていた」と過去形で言っているので、仲がよかった「いい奴」を犯罪の被害で亡くした結果、見方が歪んでしまったようにも見える。まあ、普通に考えれは、こんな偏見を持っている人には、偏見を持たれいてる側は近寄りたくないと思うので、距離を置かれてしまったというだけだとは思うけど。
一人称が「僕」とか「私」で、乱暴な物言いだけど、言葉が汚いわけではなく、5号とは対照的に育ちの良さが感じられる人。
12人で一番嫌な奴だけど、一番語りたくなる人かも。

[11号]
移民だからか、アメリカの理想を12人の中で一番信じている人。それがまぶしいからか、その理想的な環境で生きていながら、そのことを感じていなかった人たちに罵声を浴びせられるというのが気の毒。

[12号]
討論の勧め方の提案などの形式については提案できるけど、事件に関してはいまひとつという人。

  • 2018/08/12 14:00, 18:00, 08/14 19:00, 08/15 19:00, 08/16 19:00, 08/18 14:00
  • かでる2・7

text by 小針幸弘

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