現実を少しだけ変えるために トランク機械シアター『ねじまきロボットα ~ともだちのこえ~』

これは、あなたこそ観るべき作品だ。

「子ども向けの人形劇か。自分には関係ないな」そう思ったあなたのことだ。

トランク機械シアター『ねじまきロボットα ~ともだちのこえ~』。いま札幌で観られる最良のファンタジー、大人のための寓話劇、観る前と観たあとでは少しだけ、人生が変わる。

もちろん劇場には子どももいる。最前列に座って前のめりになって舞台を観てるだろう。だから大人は、子どもたち込みで舞台を観ることになる。

ワクワク心躍らせる子どもたちを見て、自分も昔はこうだったなあと過ぎ去りし遠い過去を思い出すのもいいだろう。だけど……

物語が進むにつれて、しだいに大人たちは気づいていく。いま観ているのは寓話、描かれているのは現代の縮図、社会が抱える問題がデフォルメされてる世界なんだと。

自分たちとは違う、そんな理由で迫害しようとするものがいる。権力者だ。そいつは金をあやつり仲間を増やし、他者を排除していく。おぞましい世界だ。

町の名は、「サツホロ」。ゾッとする。

客席の前方には食い入るように舞台を見つめる子どもたちがいる。この子たちはこれから他者への憎しみにあふれた、排他的な世界を生きなければいけないのだろうか。

舞台では、ねじまきロボットのアルファーが友達のために力をふりしぼり、排外主義の権力者に立ち向かっている。子どもたちはアルファーを応援する。純粋だ。物語に没頭している。

いっぽう大人たちは? 突きつけられた現実に戸惑うだろう。現実世界で僕たちは、子どもにもわかる善悪の区別を見て見ぬふりして放置してきたんだ。

でもだからこそアルファーを応援しよう。舞台の上で力を失わないように、優しいあの子を助けられるように、そして現実の世界を少しだけ、変えるために。

これは子どもたち“だけ”の作品じゃない。この世界をまだまだ楽しく生きていこうとする、未来ある大人たちのための舞台でもある。

……なんて書くと小難しい作品だと思うかもしれない。心配ご無用。かわいく愉快な人形&出演者が、ところせましと舞台を駆けまわり、はじめて行った土地で新しい友達と出会い冒険する、そんなお話だ。

主人公・アルファー(縣梨恵)は明るく無垢な存在。動力である頭のネジを自分ではまわせないので、だれかを頼らないと生きていけない。だからこそアルファーはひとを100パーセント信じて生きている。

アルファーの友達・つぎはぎは、ブリキのロボットで歩くのがゆっくり。それがおかしくて子どもたちは大喜び。すべり知らず。

パペポ(石鉢もも子[ウェイビジョン]、Wキャストでかわむらはるな)はパステル王国のアイドル。パステル語は日本語だと別の意味にもなって笑いを誘う。意外と下ネタ?

パペポの応援隊長を自認するのがアラビック(寺元彩乃[capsule])。陰ながら応援する姿がかわいい。ふるえも最高(ぜひ観てほしい)。

パペポのマネージャーはマネマネ(高井ヒロシ。三島祐樹とのWキャスト)。子ども向けとして作られた本作にマネージャーという役があるのもすごく現代的。

権力者のスーツ大臣(立川佳吾。ほかキャストに小松悟、Hide-c.[C-Junction])はなんか見たことあるような気もするけど……。彼は子どものときに「アルファー」みたいな劇をもっと観てればよかったのにね(いまからでも遅くない?)。

お掃除係のドラパ(原田充子)はスーツ大臣の手下になるが、主義主張のなさというか、信念の底が抜けてる感じが、かえってフットワークを生み出して軽やか。

ドラパはじめサツホロに住むキャラは、クレヨンで塗り重ねたような彩色で、造形ふくめ美術としてもとてもいい(もちろんアルファーたちレギュラーメンバーもいい!)。

三島祐樹@ラバの音楽も心に残るし、すぐれた舞台というのはやはりトータルとしていいんだなあと実感した。

アルファーのシリーズは30作を越えているらしい(すごい!)。1本くらい完全に大人向けを打ち出して作っても、人気が出そうな気がする(僕は観てみたい)。

 

公演場所: 札幌文化芸術劇場hitaru クリエイティブスタジオ

公演期間:2019年2月6日~2月12日

初出:札幌演劇シーズン2019冬「ゲキカン!」

text by 島崎町

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