演出のうまさに酔いしれる yhs『白浪っ!』

この作品は2017年度のTGR札幌劇場祭で大賞を受賞した作品のリメイク。
プログラムによれば、話の筋は歌舞伎『青砥稿花紅彩画(白浪五人男)』と『三人吉三巴白浪』という白浪物(広辞苑第7版によれば白浪とは盗賊の異称)をミックスし、それを「もし現在も江戸幕府が続いていたら」という設定で創作したお芝居だった。

ここで盗む物はビット小判5,000万両。仮想通貨が幕府の手によって生み出され、流通が制御されることになっていた。江戸城400(フォーハンドレッド)に忍び込んで、暗号化されたネットワークをハックして盗みだそうとする。ここに登場するのが、南郷力丸や日本駄右衛門、赤星十三郎。本来五人衆なのだが、残りの二人、弁天小僧菊之助は死んだと思われ、忠信利平は堅気になって妻子と平穏な日々を送っていた。この五人を中心に義理、人情、仁義、友情、家族愛が入り乱れる。
話の時間軸が前後に移動し、それぞれの場面で笑いを取る仕掛け満載だった。ただ話の時間軸が前後するので、油断して「これ、いつの話?」と戸惑ってしまうこともあった。

このお芝居が面白いのは笑いの仕掛けの巧みさ。とにかく登場人物のキャラクターがしっかり描かれていて、そこに芝居がうまい役者さんを配役していたので、面白くない訳はない。それはもちろん、演出家の腕の良さである。

とはいえ、全体の筋書きとしては分かりにくい部分もあった。たとえば冒頭、追い詰められた弁天小僧が大江戸スカイツリーから身を投げる場面がある。これがその後、異なるシチュエーションで2回ほど繰り返される。そのたびに、それまで見えてこなかった側面が明らかになるのだが、そもそも634メートルもあるスカイツリーから身を投げたにもかかわらず、どうして助かったのか。話が進むにつれ、幕府側に助けられて幕府側の人間になってしまうということが明らかになるが、幕府はどうして助けたのか、どのように助けたのかが分かりにくかった。こんなことを考えると、全体的な流れがイマイチ分かりにくかったといえるが、それをひとつひとつの場面で補い、一人一人の役者さんが補っていたといえる。

シンプルな舞台装置だったが、使い方は抜群だった。照明も文句なかった。演出のうまさは、時間軸の変化の場面で、二人が背を向けて立ってセリフをいいながら回転し、役者Aから役者Bにスイッチするというのは見ていて面白かったし、さすがである。

このお芝居には17名の役者さんが出演していた。主演の南郷力丸を演じた櫻井保一さんは『12人の怒れる男』で見てイケメンだなと思った記憶が残っているが、そしてイケメンなのだが、力丸役にぴったりだった。声も良かった。またもう一人の主役である日本駄右衛門を演じた小林エレキさんも外連味あふれる役柄を演じていた。キレまくる役柄もいいがキレない役もいいね。弁天小僧を演じた深浦佑太さんのお芝居も何度も観ているし、「深浦推し」でもあるのでそれなりに心寄せたが、はじけるパワーが欲しかったかな。 配役はその他に、赤星十三郎に青木玖璃子、利平の家族として、妻おとせ:岡今日子、マユミ:藤谷真由美、モリカ:佐藤杜花、アルト:小原アルト。間者としてのお嬢キティ:長麻美、オトコキティ:最上怜香、おかんキティ:氏次啓。弁天小僧の許嫁千寿:曽我夕子、当主徳川家守:棚田満、退職した刑事で弁天小僧の父親青砥藤綱:城島イケル、幕府仮想通貨担当:テツヤ、刑事玉島逸当:重堂元樹。 玉島役の重堂さん、ルパン三世の銭形警部のような役作りで楽しかった。テツヤさんはテクノポップ的衣装で場違いな感じだったが、その衣装での立ち振る舞いが独特の雰囲気を醸し出していた。振り返ってみると女性陣より男性陣の方がキャラが立っていたかな。
最後に五人が見得を切っていたが、見得を切るのは難しいんだろうな、きっと。

上演時間:1時間50分
2019年2月2日13時
コンカリーニョで観劇

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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