「華やか!」の一言 劇団千年王國『贋作者』

舞台上には写楽の錦絵、江戸兵衛が架かっている。やがて舞台上に設えられた5つの壁が180度回転して遊郭の一室に変わる。ここから物語がスタートする。

時は1881年。文明開化の荒波が押し寄せてきた明治14年。江戸幕府の加護を受けてきた画家集団狩野派はその後ろ盾を失うも、偉大な父の画風を唯一継承している河鍋清一郎。弟の河鍋鴈次郎は天賦の才を持ちながら、女郎の吉野の元に入り浸り、贋作を作ってはブローカー、井上ミツコを通して西洋に売りさばく。鴈次郎にニセモノ作りをやめ、伝統を守るべく自分と一緒に絵を描くよう諭す清一郎。聞く耳を持たない鴈次郎。しかし兄の説得でしぶしぶ病の床にある母、清(きよい)を見舞った弟。その後二人は衝撃の事実を知る。

出演は兄河鍋清一郎に寺田剛史(飛ぶ劇場)、弟河鍋鴈次郎にリンノスケ(きっとろんどん)、兄弟の母、清に東華子、女郎吉野に坂本祐以(劇団千年王國)、ブローカー井上ミツコに飛世早哉香(in
the Box)。他に、鴈次郎の元で働く雅朝に吉本琢哉(Casting Office
EGG)、弥市に阿部文香(劇団千年王國)、女性初の新聞記者を目指す安藤信枝に熊木志保(札幌座)、やくざの男にすがの公(札幌ハムプロジェクト)。

一言でいえば華やかなお芝居だった。
舞台装置や舞台美術が観るものの目を捉えて放さない。遊女の部屋かと思えば、角度を変えて郭の一角を表現したり、母清の部屋を表現したり。同じ壁を前後に使って場面転換する演出は見事であった。また、出演者たちの衣裳も錦絵を思わせるような色とりどりの衣裳が多く、華やかと表現するのにピッタリだった。
そして大団円では、天井から8枚ほどの絵がぶら下げられるが、これが華やかさのフィナーレを飾るにふさわしい演出で、思わずうなってしまうほどだった。

役者さんたちは、すこぶる付きで熱演だった。その中でも清一郎役の寺田さんは北九州の劇団の役者さんだそうだが、スッと立ってしゃべる姿は何ともいえない雰囲気を醸し出していた。でも最初に登場したときから内村光良に似ていると思い込み、最後までウッチャンに見えて仕方なかった。(笑)
またあまり出番は多くなかったが、母親役の東華子さんも、恐いほどの情念や女の業の深さを見せてくれて好演だった。歩く姿がきれいだと思ったら日舞の師範だそうで。
濡れ場を演じた坂本祐以さん、リンノスケさんには「よくやった」と叫びたくなるほどだった(舞台ではギリギリの表現だろうと思う)。もちろん、リンノスケさんはこの役柄に最適な役者さんで、怠惰な生活を送りつつも実は内に秘めたる情熱を見事に表現していた。

しかし全体を通してみれば、話が膨らみすぎていた感が否めない。

兄弟・母・女郎・ブローカーの関係は謎解きを含めてスッキリしていて納得できた。女ブローカーが実は井上馨が正妻以外の女性が生んだ娘であったという設定は、ホンモノ(嫡出子)とニセモノ(正妻以外の子)の対比だったのだろうと思う。また病床の母を訪れた後で分かる兄弟の出生の秘密も、ホンモノ(兄)とニセモノ(弟)の逆転を表現していたのだろう。ホンモノとは何かを問い、ホンモノとニセモノの対比が幾重にも重なってストーリーが展開するのは悪くはない。なので、兄弟の出生の秘密が判明した後、清と鴈次郎たちがにっこり笑って写真撮影する場面では『ああ、人間って恐いな』と思ったし、ここで終演かと思った。

ところが話は続き、その後のお芝居が実に長く感じられた。鴈次郎の精神状態がおかしくなるところまでえがく必要があったのだろうか。加えて、後半には女性初の新聞記者を目指す安藤信枝が贋作を追究した記事を書くために執拗に鴈次郎に迫るが、ここの展開は果たして必要だったのだろうか。約2時間のお芝居だったが、90分程度でも十分楽しめるお芝居なのでこの点がやや気になった。
またセリフが聞き取れないところが何ヶ所かあった。音響の使い方の問題なのか、あるいは座った場所の問題なのか、はたまた役者さんの言い回しの問題なのかは分からないが、この点も残念だった。

と、いろいろ雑感を書いたが、劇団千年王國、とりわけ主宰者の櫻井幸絵さんのお芝居は、『ローザ・ルクセンブルグ』も『狼王ロボ』も、そしてこの『贋作者』も、舞台空間をうまく利用して観客を楽しませてくれる。しかもダイナミックだ。好きな劇団であり演出家であることに違いはない。千秋楽に観ることができて本当に良かったと思う。
 
 
上演時間:2時間2分
2019年2月11日(月)14時
札幌市教育文化会館小ホールで観劇

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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