実験的、しかし心に響く作品 イレブンナイン『はじまりは、おわりで、はじまり』

このお芝居は、昨年3月に同じサンピアザ劇場で上演した作品の再演。

厚別東中学校3年生、野田いろはに宮田桃伽、その父、野田哲(のだてつ)に納谷真大、いろはの母に澤田未来、大家さん宅の娘りょうに後藤七瀬、その弟はじめに大作開、母親の姉妹であるあずきおばさんに小野洋子、父親の友人スマイル松本に菊地颯平と、ここまでは昨年のキャストと一緒だった。

まず昨年との違いは、劇中劇(?)が挿入されていたこと。
梅原たくと、工藤沙貴、ヴィンセント藤田が劇中劇に新たに加わっていた(役名と本名がほぼ一緒だった)。この劇中劇はとても面白い構成だった。言葉ではうまく説明できないもどかしさがあるが、立場が入れ替わりながら永遠に続くという、まさに実験的なお芝居にふさわしい内容だった。もっともお芝居全体のストーリー展開にはあまり関係ない場面ではあったが、深刻になりがちなメインストーリーから視線を変える面白さがあった。こういった遊びは納谷さん上手だなあ。

また前回と同様、のだてつがいろはに向かって「俺はおまえを見続けてきただけだし」「いろはは勝手に生きてきたし」という台詞にはジーンとさせられた。いろはの生き方に何も影響を与えることができないことを理解している父親。その上で、影響を及ぼされなくても娘は自分で考えながら生きてきたことを理解している父親。だからこれからも、悩みつつも自分で考えて一人で生きていって欲しいと願う父親。今年もやっぱり目頭が熱くなった。

そしてもうひとつ。
いろはが「子どもはつらい。大人は?」と問いかけたとき、あずきおばさんが「大人もつらい。でも豊かだ」と答える。たしかに子どもも大人もつらいことがある。しかし子どもの世界と大人の世界を比べれば、圧倒的に大人の世界の方が広い。広い世界であればこそ、いいことも悪いことも含めて精神的に豊かな生き方ができる。大人のすべてが決して豊かな生き方ができるわけではないが、豊かな世界があることを子どもに伝えることは必要である。セリフを聞きながら『深い言葉だなあ』と感じ入った。

昨年に引き続き、今年も厚別南中学校の卒業生向けて、サンピアザ劇場初日の12日午前中にこのお芝居を披露したそうだ。
5月にはブラッシュアップしたこのお芝居をシアターzooで上演するらしい。しかもいろは役の宮田さんが個人的事情で役を降りるため、いろは役と友だち役を公募するらしい。さらにパワーアップしたお芝居を期待したい。
 
 
イレブンナイン『はじまりは、おわりで、はじまり』(作・演出:納谷真大)
2019年3月12日20時 上演時間:60分 サンピアザ劇場

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。