恥ずかしながら、原作の流れをすっかり忘れている上、「なんだかエロい小説だった」くらいの知識しかない状態で観劇。でも、個人的にはそれが功を奏したリーディング公演だったと思う。
大学に務める女が行きつけのバーで飲んでいると、「なんだかいい匂いがしたから」と、1人の少年がふらりと現れる。女は見ず知らずの少年を育て始める-。というのが、「男女逆転版」の入り口。へー、やたらと演劇っぽい小説なんだなぁと素直に思った。そこから、蔵前に借りた家で2人で暮らすのだが、少年から青年へ成長する過程で言うことをきかなくなるわ、隠れていろいろとやらかすわ、「いい子」として育てたはずの男は女の手の届かないところでヤバイ男になっていることが、対話の中で明らかになる。
主演の安藤玉恵さんの、あからさまに狂気にかられた演技ではなくても、徐々に狂わされていく様が強く印象に残った。「母」としてなのか、「女」としてなのか、そのはざまで揺れる感じは演劇にした方がより伝わるんだと思う。だけど、私はリーディングでも十分過ぎた。
ただ一つ。あんなに他人に体を許し、奪う男を叱責する理由が、「ババア」と言われたことだったことには違和感があった。これは捉え方次第かもしれないが、そこにたどり着くまでに自分と男の距離感(年齢や体の関係がないことについて、など)について、それほど触れていなかったからだ。だから、アフタートークでペヤンヌさんが「原作は体の関係ありき、ですから」と話していたのを聞いて、「ババアでキレるのか…」と思ってしまった。女(男も)関係がヤバイと気付いてストーカーみたいなことをし出すけれど、かわいい我が子(我が男)と思うなら、もっと早い段階から狂気が見え隠れしてても良かったのでは-とも妄想する。
ポツドール、ブス会*。その他の舞台でも安藤さんを観続けてきたので、初めてお話しできて感激してしまった。しっかも、かなり面白そうな人(以前、演劇雑誌で連載していたエッセーも面白かった)。8月の、松尾スズキとの二人芝居で再会できるのを、勝手に、一方的に楽しみにしている。
余談:私が観た回で、安藤さんは視線を落とさなくても畳縁を一度も踏まなかった。すごい。
●5月18日、新善光寺で観劇
text by マサコさん