正面にスクリーンとしても使える白っぽい大きなパネル、左右に細目のパネルで袖を作る。劇団によってベンチ等を追加するだけのシンプルな舞台装置で無駄を削ぎ落とした感じが良い。「DUO PROJECT」とは二人芝居の企画。参加されたのは
北海演研『ヒョウヒョウ』
劇団米騒動『はなびら』
変色企画『彼女のスマホが臭い理由』
ハナロクショー『トツクニ君』
の方々。(上演順)
いきなり順番を無視するけど、劇団米騒動さんの『はなびら』は「かわいそうなぞう」を脚色ということでいいのかな?
むかし小学校の教科書に載っていたから懐かしい反面、兄が「かわいそうなぞう」の授業によって生徒が泣くかどうか?それで先生の技量を測るようなことを言ったことがあり、泣けなかったボクには「そうかな?」と思った記憶がある。その時教室には「泣かなきゃ冷たい人」、みたいな空気があったんじゃないかと捻くれたボクは考えたのです。確かに生徒を感動させるには先生自身が物語に感動していることが大切だとは思うのだけどね。(演劇における演出家と同じ?)
そんな極めて個人的なエピソードのせいか話は全く入ってこなかった。入ってこなかったけど心地は良かった。静かであり、なにより間に緊張感があった。テレビドラマや映画では、あの静けさと間には観る側は耐えられないだろう。かといって演劇であれば演じる側には辛い静けさと間だったに違いない。暇があればスマホを覗くことが多い昨今、貴重な静けさがボクの脳内にはあった。
北海演研さんの『ヒョウヒョウ』はシンプルな舞台装置を利用し照明の色、照明による影を効果的に使っているように思えた。それをやりたくてシンプルな舞台装置を交渉して実現したのではないかと思えるほどに。照明にドレープと光沢のある衣装が美しく映えていた。惜しむらくは菊地健汰さんの声。今回の企画の中では一番観た回数が多い役者さんで以前から感じていたのだけれど、他の役者さんと比べて声が通らないというか声が前に出てこないというか。そのせいか台詞がボクの心に入ってこないというか・・・。声に関する指摘がボクだけであれば申し訳ない、的外れだとして忘れてほしい。期待しているので言わせていただきました。
次に変色企画さんの『彼女のスマホが臭い理由』。ようやくと言いますか、ここでタイトルにした「化学変化!」が起きました。あくまでボクの主観なのですが・・・。よく音楽の世界では「対バンでどんな化学変化が起きるか!」みたいなことを言いますが、ボクがそれを感じたことはありません。調子の良し悪しを感じるだけです。そんなこともあり、まさか演劇で化学変化(表現が適切であるかは分かりませんが)を感じることが出来るとは思いもしませんでした。
この作品は、臭いスマホのにおいを消す仕事をしている男性がいて、自分の彼女のスマホが物凄い異臭を発する原因を突き止めようとするハチャメチャな物語です。調べた結果、彼の勤めている会社が開発した薬品でスマホを臭くしておきながら、仕事として臭いを消し、代金をもらうという悪い会社であるという驚愕の事実に辿り着きます。動揺している彼の前に社長があらわれ、告発したら3万人(数字を忘れた3千人?)の従業員が露頭に迷うのよ。従業員には家族もいるのよ。あなた責任とれるの?みたいなことを言うのです。
「キター!」と思いましたね。何故なら『ヒョウヒョウ』では自分の為に生きることと誰かの為に生きることとの葛藤が描かれ、『花びら』では空襲で動物園が壊されて動物が逃げ出したら危険なのでその前に殺さなきゃいけない、でも殺せない飼育員の葛藤が描かれた。そして『彼女のスマホが臭い理由』では個人の倫理観と企業の論理、告発により従業員とその家族の生活を壊すことへの葛藤、何より結婚して家庭を築いていきたいという自分の願望(無職になったら無理)との二重の葛藤が描かれています。
化学変化と言ったのは、変色企画さんが3番目の上演でなければ、そして違った心の葛藤を描いた2作品が無ければ、あくどい社長の言葉はここまでボクの胸に刺さらなかっただろうということです。作り手の意図を超えたであろう衝撃をボクに与えたのです。もちろん単独で観ても楽しめる作品だと思います。変色企画さん、推しです。
はい、ハナロクショーさんの『トツクニ君』は?と思われる方が(ここまで読んでいただけたなら)いらっしゃるでしょう。正直に申し上げますと、疲れと眠気と空腹で内容を覚えておりません。申し訳ないです。ただ一番笑いをとっていたことは間違い無いと思います。
最後に二人芝居の魅力について語りたいとも思いましたが、残念ながらボクにその見識はありません。言えるのは一度観劇することから離れてしまったボクを演劇の世界に引き戻した切っ掛け、それは電氣食堂さんで偶然観た二人芝居だったということです。二人芝居の可能性に期待したい。
2019年7月12日(金)20:00
演劇専用小劇場BLOCH
text by S・T