原初的な感動 シアターZOOプロデュース 劇のたまご『ぐりぐりグリム~シンデレラ』

こどもが観て楽しいってことは、大人が観ても楽しいってことだよね。

劇のたまご公演「ぐりぐりグリム~シンデレラ」は、こども向けというよりは親子向けにつくっているとのこと。その言葉どおり、劇場にはこどもの歓声と大人の笑い声が入りまじり、いっしょに劇を体験してた。

劇を観て感想を書くという(不純な動機で)やって来た僕にとってさえ、とても居心地のいい空間で、ああ、楽しむってこういうことなんだなと思えた。

「劇のたまご」ということはつまり「面白さのたまご」でもある。いや、すでに面白さは生まれていた。殻を破って顔を出し僕たちに挨拶してくれた。

冒頭、ここは劇場でこれから劇をやるんだよ、という前説がはじまる。客席後方に照明さん&音響さんがいるんだよ、スイッチを押せばほら、と。瞬間、舞台がまたたく間に色を変え、軽快な音楽が鳴りはじめる。

そんなこと大人だったらだれでも知っている。だけどどうしてだろう、それだけでも心がワクワクする。あ、暗くなった、あっ、色が変わった。お、音楽が! と。

歌があってダンスがあって笑いがある。広く知られている一般シンデレラとはちょっと違うグリム版「灰かぶり」では、なぜか鳩が大活躍! これまではお飾り的だった王子様も本作では一番人気。みんな王子様と踊りたくなる。

こどものシンプルな情動にうったえる演出は、大人の中にある原初的衝動も刺激する。人が誰しも持つ面白さに対する本能が揺り動かされる

こどもと親子に向けた劇だけど、いまお芝居をやっている人や、これから志す人にとっても楽しいしいろんなことが学べるんじゃないだろうか。なんといっても大人2000円、学生1000円という演劇シーズン内では大変お得な値段なのだし(小学生500円、未就学児童は0円!)

だから、楽しくてちょっぴりヒネリのあるシンデレラを観に行こう。ひたむきな灰かぶり(熊木志保[札幌座])が待っている。とぼけた鳩(横尾寛[平和の鳩]←奇跡のような所属名)も笑える。ふたりの姉(西田薫[札幌座]、櫻井幸絵[札幌座・劇団千年王國])もわがままでチャーミング。そしてみんなの人気者、王子様(櫻井ヒロ[micelle])にも会えるよ!

台風がすぎゆき、ひたすら晴れわたる空のもと、札幌市民交流プラザの建物には、夏休みの学生たちが勉強したりダベったり。図書館や美術展に来た人やカフェで楽しむ人たちもいてにぎわっていた(涼しいしね!)。

そのなかへ、いまさっきクリエイティブスタジオでおこなわれていた『シンデレラ』を観て笑顔になった親子が混ざっていく。文化とか豊かさとか大げさな言葉だけど、つかの間そういうことを思いつつ、僕は外に出て刺すような日差しを浴びた。暑いけど、それもすこしだけ、いいかなと思った。

 

公演場所:札幌文化芸術劇場hitaru クリエイティブスタジオ

公演期間:2019年8月17日~8月24日

初出:札幌演劇シーズン2019夏「ゲキカン!」

text by 島崎町

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