人の声の力強さをこれでもかと思い知る ミュージカル『レ・ミゼラブル』

舞台の上の人々の歌声が力強く客席を駆け抜け、天へと吸い込まれていった。
鳥肌が立つ。
人の声とはこんなにパワーに満ち溢れ、身体ごと心を揺り動かしていくものなのか。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』を観た。

帝国劇場で日本初演が行われたのは1987年。札幌での公演は29年ぶりとのこと。
しかも、会場は多面舞台と最新の舞台設備・装置を擁する札幌文化芸術劇場hitaru(ヒタル)である。

現在、札幌には四季劇場があり、劇団四季のミュージカルはわたしも何本か観ている
でも、正直、これまであまりミュージカルを積極的に観たいとは思わなかった。何がイヤというわけではなかったのだけれど。

でも、あの『レ・ミゼラブル』! 32年ものロングランで演じ続けられ、多くの熱狂的なファンを持つ作品のヒミツは知りたい。なんと言ってもhitaruで観てみたい。

上演2日目の12日のマチネへ。

会場に向かうと、既にたくさんの人々で劇場へのエスカレーターは長蛇の列。もう既に全公演のチケットは追加公演も含めて完売とのこと。会場内は4階席までびっしりの人、人、人。

ステージの両袖いっぱいに煤けた建物のセットが組まれ、ちょうどわたしの席からは上からのぞき込めるオーケストラピットから上がってくる楽器のチューニングの音にソワソワする。

息を呑むような一瞬の静けさから、オーケストラの演奏が始まる。
突き抜けるような音!
一瞬にして、開演前のソワソワが高揚のドキドキに変わった。

照明は全体を照らすのではなく、少し暗め。その薄闇の中からジャン・バルジャンの声が客席をまっすぐに貫く。

やられた。

思いのほかスピーディーに展開される壮大なドラマに、もうすっかり引きずり込まれていた。

楽器の音か、誰かの歌声。それらの音が途切れることなく響き続ける。歌うように話す、とはよく聞く表現だけれども、セリフの一つひとつも歌い語りかける。

そうかー。これがミュージカルというものなんだ。

1曲1曲を繋いで劇が成り立っているのではなく、最初から最後まで通したすべてが1つの歌なんだ。その大河の流れのような歌の中にわたしたちは身をゆだねる。歌に導かれて、別世界に旅立つ。気持ちよいものだなあ。

その世界にリアリティを持たせる舞台装置は、劇場の大きさにぴたりと合い、セピアを基調とした照明が、絵画のような情景を作る。時折、差し込む月明かりの白い光や、人間を貫く光線にハッとする。

パリの下町の建物をかたどった天井高いっぱいの壁が開いたり閉まったり、ジグザグに配置されたり。そのたびに街の奥行きがあっという間に変わり客席にいながら、さまざまな場所へ連れていかれるよう。
聞くところによると、ステージセットは帝国劇場と同じサイズで組まれているとのこと。あのダイナミックな背景はオリジナルと同じだったのか。すごいぞ! 札幌!!

主役級の人たちのソロの美しさやカッコよさはもちろん、見ごたえがあるのだが、二重唱、三重唱、そしてコーラスと声が重なり合うたびに生まれる厚みが凄みに変わる瞬間が何とも言えない。
歌詞の内容の前に声が心にまっすぐに届き、切ない恋心や自由への渇望を訴える。
人の声の力、魔力と言ってもいいかもしれない。

『レ・ミゼラブル』が、ミュージカルがこれだけの人の心をとらえるヒミツの1つはこの声の魔力なのだろうと思う。

休憩をはさんで3時間5分があっという間だった。
カーテンコールでは一番上の席の観客もスタンディングオベーションで、今度は力強い拍手のうねりが舞台に向かって降り注いでいた。

2019年9月12日 13:00 於:札幌文化芸術劇場hitaru

text by わたなべひろみ(ひよひよ)

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