ギリギリ感とノスタルジー コンカリーニョプロデュースSampling 3rd『忘れ咲き彼岸花』

 街中のゴミが集まるゴミ処理工場。そこで働く左目と左腕がない土井三郎(小石川慶祐)とももこ(佐藤杜花(yhs))の兄妹。兄の三郎の左腕は子どもの頃にももこに移植した。ももこはどことなく知恵遅れ風。三郎には、やがて灰にされる「ゴミ」の声が聞こえるという特技があった。
 そこにたった一人でマネキン製作会社を運営していた田中ひろし(小林エレキ(yhs))がやってくる。田中は28体のマネキンを製作して販売したが、そのいずれもが駄作で返品されてくる。返品された27体のマネキンは、田中の手によって粉々にされた。もうマネキンは作らない、会社もたたむと考えていた田中であったが、最後に残った3号(3番目に作ったマネキン:藤谷真由美)がいつの間にかゴミ収集に出されたため、三郎が働いているゴミ処理場にやってきて「マネキンを探して欲しい」という。三郎に「自分で探せ」とつっけんどんにあしらわれる田中。途方に暮れる田中の周りには4羽のカラス(牛島有佳子、海原章子、長谷川史織、菅野のぞみ。本当はコウモリだったらしいがカラスに見えた)。
 一方、町でゴミ収集車を使ってゴミを集めている大虎五右衛門(氏次啓)とウメ(澤田未来(ELEVEN NINES))の夫婦。ゴミ処理工場にゴミを運んできた五右衛門は「たしかにマネキンを収集して運んだ」という。
 やがて3号に再会する田中ひろし。田中とコミュニケーションができるようになった3号は「私を部屋に連れ戻って」と懇願するが、田中は拒否する。三郎の手によって焼却炉に葬られたと思われた3号であったが、最後の場面で田中の部屋に横たわっている。振り上げられた田中の手には…。
 
 このお芝居は、かつて北大で演劇をしていた斎藤歩さん、コンカリーニョの斎藤ちずさんたちが立ち上げた札幌ロマンチカシアター魴鮄舎(ほうぼうしゃ)で1989(平成2)年9月に上演された。そのときの観客は4日間でわずか340人だったという。それを30年後の今年(令和元年)に、山田マサル氏の手で現代風にアレンジして再演されたわけである。ストーリーは分かりやすかったが、『よくもまあ、こんなストーリーを考えたものだ』と感心した。
 見終えた最初の感想は、「ギリギリだなぁ。」
 もの悲しいお芝居であるにもかかわらず、半分程度、「お遊び」が挿入されていた。ダンスを踊る場面もあった。嵐の歌を歌う三郎役の小石川さんがどことなく嵐の二宮に似ていたのにも苦笑した。原作が斎藤さんで、演出が山田さんであれば、横道にそれるのもうなずける。最後の最後に感情移入できたが、途中はハチャメチャなお芝居を観ているような感覚であった。お芝居が壊れなかったのは、役者さんたちの力量と、壊れる寸前で話を本筋に戻した山田マサル氏の演出ゆえだ。そういった意味ではキャスティングがうまくいったといえるし、山田氏を演出に迎えたことが功を奏したといえる。田中ひろし、五右衛門、ウメはダブルキャストだったので、深浦版田中も観てみたかった(深浦押しなので)。小林さんとはひと味違った田中になったに違いない。
 30年前に作ったお芝居で、しかも当時演じていた斎藤さんたち関係者を招いての再演なので、当時を知らないこちらもどこかノスタルジーを感じずにはおれなかった。
 
 上演後に、3号を演じた藤谷さんが進行役となって、斎藤歩氏、橋本幸氏を交え、さらに演出の山田氏、田中役の小林氏の5人でアフタートークがあった。20分ほどだったが、アングラ演劇が華やかだった時代の、札幌の学生演劇集団魴鮄舎の「行状」を聴いて『なるほどねー』と思わせる話が面白かった。一言でいえばやりたい放題。そういえば「れら」の戸塚さんも関わっていったと聞いて、ちょっと驚いた(斎藤さんと戸塚さんの演劇スタイルが違っていると感じていたので)。
 
 
コンカリーニョプロデュースSampling 3rd
「忘れ咲き彼岸花」(脚本:斎藤歩 演出:山田マサル) -札幌ロマンチカシアター魴鮄舎をサンプリング-
 
2019年10月19日17時
上演時間:1時間55分
コンカリーニョにて

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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