≡マサコさんの部屋≡  vol.16   日常の延長上にみえてくるもの ウンゲツィーファ⑬ツアー公演『動く物』札幌公演

 全部がそうとは言えないが、演劇は日常と地続きのところにある、と思っている。私は本橋さんの舞台は観たことがなかったが、本作の映像をいただいて、ネット上に公開されている本作と佳作を受賞した『転職生』の脚本を読んで、その思いを強くした。

 私が観た映像は、劇場公演ならぬ「自宅公演」(以前、劇団コヨーテ・亀井さんの稽古場を兼ねた自宅で稽古を観たことを思い出した)。おそらく本橋さんが寝起きしているベッドと小さいテーブルがあり、ゴミがごちゃっと散らばっている部屋が舞台だ。フリーターのムジナと会社員のマミのとある一日を描いているが、セリフの内容は、日々、私たちが発しているようなたわいもないことである。でも、そこに、泉のように得体の知れないものがポコッ、ポコッとわき上がり、2人の関係にも変化が起きる。例えばこれがミュージカルなら照明と音楽による華々しい展開となるが、本作ではその振れ幅はとても小さい。それが観る人によっては風船のように膨らんだり、なかったものになったりとするのが、本作の面白さなのだろう。

過去公演「さなぎ」の一場面

 日常の中で「まあ、全面的に肯定はしないけど、そんなもんだよね」と簡単に流されてしまうことが、他者の目からすると「演劇」と映ることもある。それを楽しめる舞台だと思う。

 などと書いてはいるが、私は本橋さんと面識がない。でも、11月の札幌公演について寄稿をお願いしたところ、快く引き受けてくださった(北海道文化財団・市川さんにも感謝!)。ぜひ、以下を読んでどんな舞台なのかを観に行ってほしい(そんな私は、公演中、高校演劇の全道大会で釧路に…)。

本橋龍さん

初めまして。東京で演劇創作をしています、本橋龍と申します。「ウンゲツィーファ」という個人ユニットを運営しています。この度、初めて札幌で公演をやることになりました。上演するのは、平成29年度の「希望の大地の戯曲 北海道戯曲賞」という日本全国から応募できる戯曲賞で大賞をいただいた作品です。

ずっと、東京から離れた地で演劇を上演したいという気持ちがありました。僕にとって演劇というのは作品と現実の線引きが曖昧な創作物です。以前、とある演劇を観るために電車を乗り継いで何時間もかけて移動し、その演劇を見た時に旅路も含めて作品だったように思えました。若しくは、旅に演劇という空想が入り込み、「現実脱出」がなされたような気分でした。こういう経験から、東京を離れたところでやりたい、と思っていましたが、危惧したのは「その地の人のことを考えられていない」ということです。離れた地で演劇を作るとして、外側の人物が突然割り込んで何かやりだす、ということはいろんな危険があるように思えて、踏み出さずにいました。そんな中、北海道戯曲賞を受賞して札幌に来て、色んな方に出会って、自分が携わる演劇を観てほしいな、と思って。しかし、「東京まで観に来てくれ」というのも大変なことなので、演劇を札幌まで持ってって観てもらおう、とシンプルに思いました。演劇というのは、映像や音楽よりも、観に行かなければ摂取できないものです。だからこそ、持って行かなければ、と思いました。

という感じで、思ってたのとは違う角度で、東京から遠く離れた地での演劇上演が実現しました。この上演の先に「出合い」があれば良いなと思います。そういうことから僕らは誠実に作品を持っていけるし、観に来てもらえるのだと。

そしていつか、お互いの名も知らぬ旅路の人が、偶然上演を見つけて足を踏み入れて。その人にとって良い影響を与えることができたら、良いなぁ、と思うのです。

●本橋龍
もとはし・りゅう。1990年、さいたま市生まれ。2013年に創作ユニット「栗☆兎ズ」を結成。17年にユニット名を「ウンゲツィーファ」に改名。18年に上演した『動く物』が平成29年度北海道戯曲賞の大賞を受賞。翌年、『転職生』が同戯曲賞の優秀賞を受賞。今年7月、東京・吉祥寺シアターが主催する「同時代劇作家ワークショップ・プログラムvol.2」にてファシリテーターを担当した。

●ウンゲツィーファ⑬ツアー公演『動く物』
・PECORANERA GALLERY(札幌市中央区南6条西23丁目5-17)
・11月16日(土)13時、18時と17日(日)12時、17時
・予約2500円、当日3000円
・問い合わせ先 北海道文化財団 TEL.011・272・0501

text by マサコさん

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