秀作・秀逸 札幌厚別高校演劇部『七人の部長』

 この演劇は10月19日にサンピアザ劇場で2回上演された演劇の再演(今回が3回目)。あいにくサンピアザ劇場での上演時は仕事の関係で観劇できなかったので、ZOOで上演すると聞いて楽しみにしていた。

 まずは会場でもらったリーフレットから引用する。
 2000年、作者・越智優が愛媛県立川之江高校高校演劇部のために書き下ろし上演される。翌年第47回全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞。生徒会室を舞台に、部活動予算をめぐり七人の部長たちの熱い攻防が繰り広げられる。18歳選挙権の令和の時代に、高校演劇の古典的名作がよみがえる。

 もうこれだけを読めばストーリーが分かりそうなものだ。私立ヤツシマ女子高校は理事長が変わったこともあり、全校的に少ない部活動予算が、各部に配分されるとさらに少なくなる。しかもその傾向は文化部で顕著だ。高校側から示された予算原案を審議するための予算会議の場で、演劇部部長から「配分額が少ない」と増額を求める発言がある。ある運動部が30万円なのに演劇部は3,600円。あまりに少ない。生徒会規則にしたがって予算原案を審議するかどうか多数決を取ることになるが賛成は3名だけ。過半数に達しなく審議するというところまで行かない。それでも諦めきれない演劇部部長は「とりあえず、お互いを知るために各部活動の紹介しよう」と提案。運動部系の部長は異論を唱えるが、しぶしぶ応じて各部活動の紹介が行われる。途中、何度か多数決が取られるが、そのたびに審議開始に賛成する者が減り、最後には演劇部部長も原案のまま承認することに同意する。
 舞台には長テーブルが長方形に配置され、舞台前方から時計回りに演劇部部長、アニメ部部長、手芸部部長/生徒会長、陸上部部長、ソフトボール部部長、剣道部部長、文芸部部長が座る。なぜか予算原案に異議を唱える役回りの演劇部部長が客席に背を向けて座る。そもそもが、「この演劇はコメディなので笑ってください」と、前説でも紹介されたが、随所に笑えるセリフや動作がある。客席に背を向けて座るのも何らかの遊びがあったに違いない。

 この演劇の面白さは、『12人の怒れる男』のストーリー展開を期待させながら、最後にその期待を裏切ることだ。長方形に配置された長テーブル、「早く終わって部活に戻ろう」という剣道部部長、生徒会長が審議をするかどうか多数決を取る点など、ここまでは『12人の怒れる男』の世界。観ているこちらもついつい『どうやって予算案をひっくり返すのだろう』と想像を巡らすが、実は現実はそんなに甘くないということで終幕を迎える。コメディタッチでありながら現実を受け入れなければならない高校生徒会のほろ苦さがある。
 とくに手芸部部長でもある生徒会長が「年間56回も会議を開いているのに何も決められない」というセリフにはジーンときた(ここは泣かせる場面)。会議は、すべて学校側が決めた原案のまま承認され、生徒会の意見など取り入れられないということだ。こうした内容は、ホンモノの教師には書けない内容なのではないかと感じた。だからこそ、この演劇が単なるコメディで終わらない何かを持っているといえるだろう(ネットで検索すると、あちこちの高校で取り上げられている脚本のようだ)。
 まあ高校生の立場を考えれば、「自分たちで決めなさい」といわれても、結果、教師の同意を得られなければ先に進まないし、高校生は「大人の事情」を知らないから教師にいわれたままを受け入れるというのが実際のところだ。この演劇をコメディタッチにしたのは、こんなところをオブラートで包む意味が隠されているのかもしれない。

 演出を担当した渋谷彩来さん(剣道部部長)は、本物の演劇部部長で、これまでも何度か演技を観たことがあるが、今回も一番キャラが立っていた。憎まれ役でありながらアニメオタクで憎めない演技にはキラリと光るものを感じた。3年生で、今回が厚別高校での最後の演劇になるそうだ。出演は、渋谷さん以外に、藤川萌夏(手芸部部長/生徒会長)、塩入渚沙(文芸部部長)、堀川香奈(ソフトボール部部長)、山田小初羽(アニメ部部長)、金山美貴(陸上部部長)、庄司千咲(演劇部部長)の皆さん。
 どこか暗そうなイメージの中にしっかりとした芯を持つ演技をした藤川さん、文芸部が何をやっているかという難しい役回りを演じた塩入さん、優柔不断ぶりを発揮した堀川さん、オタクといわれたくないといいつつオタクぶりを発揮した山田さん、ホンモノの陸上部を思わせた金山さん。そして揺れ動く心をうまく表現していた庄司さん。
 いいお芝居をありがとう。

シアターZOO特別企画公演高校演劇解放区
札幌厚別高校演劇部『七人の部長』(作:越智優 演出:渋谷彩来)
 
 
2019年11月23日(土)15時
上演時間:65分
シアターZOOにて

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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