役者が全員いい! メロトゲニ『こぼれた街と、朝の果て。~その偏愛と考察~』

舞台中央のポールに、鎖でつながれた13人。目覚めると、そこにいた。なぜいるのか、誰もわからない。なぜ来たのか、見当もつかない。それぞれが思い出そうとする。最後の記憶はなんだったのか、もしかして知り合いだったのかもしれない。やがて彼らは気づきはじめる。自分という、存在について……。

メロトゲニ『こぼれた街と、朝の果て。~その偏愛と考察~』は、デスゲームあるいはサイコスリラーのようなシチュエーションで唐突にはじまる。ナゾ、緊迫感、人間関係、そこに恋愛話がからみ、意外な真実が……とくればもう、面白い要素はそろってる。

だけどこの劇は一筋縄ではいかない。安易なストーリーに落ちない。中央のポールにつなぎ止められ、一定の距離を保って散らばる13人のように、物語もまた中央からはなれ、周囲に視線を移していく。

作り手は、脱出させることに興味がない。序盤、登場人物が鎖を切ろうとしたりして、いちおう物語の作法としての手順は踏むけれど、その儀式はあっという間に終わり、いよいよ本題に入る。唐突な恋話(こいばな)だ。

むしろ、物語の中心はそれだった。この場所からの脱出や、なぜここにいるのかというナゾではなく、13人がつなぎ止められ、自由に動き回れない原因を作っている「恋愛」、それこそが物語の中心で、つなぎ止められた彼らの中心でもある。物語構造と舞台構造がリンクしている、じつにうまい表現だ。

だとしたら、鎖に対する反応や鎖を解こうとする方法に、登場人物それぞれの恋愛観が表されていたのかもしれない。だけど、そこまで思い至らずに、ちゃんと観ていなかったことが悔やまれる。

(自分の不注意を棚にあげて言うけれども)そういった意味で、この劇はロングランで何度も観られるような形態が、本当は一番いいはずだ。札幌には演劇シーズンなるロングラン再演企画があるのだから、面白いと思う。

さて、とは言えいくつか不満もある。まず冒頭の映像字幕は効果的ではないと思った。役者がしゃべる言葉をもっと信頼して、客もそれに集中させるべきではないか。

それから、これは反対意見もあるだろうけど、僕はあと1幕描くべきだったと思う。1分でもいいから、その先が大事なのではないかと思った。

もちろんあそこで終わる美しさもあるだろう。僕はこの一件の真相を知りグッと胸が熱くなった。まあ文字とか文章とかそういうことにたずさわる人間として、くるものがあるのだけど、それを抜きにしても、真相を知りその人物へ思いをフォーカスしていくだけで心が打たれる。だからこそ次どうなるのか、そこを見せてほしいと思った。そうしないとこの物語は、あるいはあの13人は、いまもずっとつなぎ止められたままなんじゃないだろうか。

しかし、そんな些細な不満を消してしまうほど役者はよかった。ハッキリ言って全員よかった。なに役の、と書いてしまうとネタバレになるので書かないけども、白鳥雄介の底の見える丁寧さ、原彩弓のある場面の笑顔もよかった。まちだまちこはしっかりとこの劇の中心(3人はメロトゲニ所属)。戸澤亮(NEXTAGE)は以前別の舞台で観たときと見違えた。外で見せる顔と内で見せる顔の違い、それがゾッとするほどリアル。田畑賢人のムカつく役!(僕はムカつかせてくれる役者が好きだ)。片山英紀(劇団ビーチロック)の存在に客は感謝するべきだろう、彼のおかげでエンターテイメント度があがった。さらに青地洋の繊細さ、廣瀬詩映莉の華のある図太さ(褒めてます)、氏次啓の徹底的に出しゃばらないカチッと役にハマる上手さ……などなど、ああ、書き切れない……。

役者がいいのは演出がいいからだろう。作・演出は村田こけし。かつて札幌で「おかめの三角フラスコ」として、現在は東京で本ユニット「メロトゲニ」として活動している。

なお本作はクラウドファンディングで「中高生100人を無料で招待」という企画を成功させている。実際にどのくらい来場してどういう反響があったのか、効果のほどを知りたい。

2019年11月29日(金)20時~21時55分 演劇専用小劇場BLOCH

text by 島崎町

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