≡マサコさんの部屋 2020年、年始め企画≡   「ツアー公演先の宣伝ってどうするの?」 part3

 札幌でも中堅~ベテランの劇団は、何度かツアー公演を行っているところが多い。南参さんが代表を務める「yhs」もそうで、国内に限らず韓国公演も経験している。札幌で一定のファンを獲得している劇団の、本拠地以外での公演はどうだったのか、ツアー公演をやる意味は何なのか、率直な意見をいただいた。

(マサコさん)

 

◎寄稿者/南参(yhs 代表)

 

きつい旅に出る理由

2018年、私が主宰する劇団「yhs」は、結成20周年記念公演『きつい旅だぜ』を持って、札幌・大阪・東京と3都市ツアーを敢行した。大阪は2016年から3年連続で訪れていたが、東京公演は実は初めてだった。運良く、劇作家で演出家、劇団「青年団」主宰の平田オリザが支配人を務める「こまばアゴラ劇場」の提携プログラムに選ばれたのと、20周年というタイミングが後押ししてくれた。集客で言えば、東京公演は初日前にほぼ前売りが完売。一方、3年連続で訪れていた大阪公演はやや集客に苦戦した。最終的には奇跡的に黒字になったのだが、うちの劇団くらいの規模だと基本的にツアー公演は赤字覚悟、良くてトントンという段階だ。

では、なぜそんな大変な苦労をして旅公演をしたいのかと言えば、作品を観てもらいたい人がいるからだ。まず、札幌や全国各地の演劇イベントで出会った演劇仲間たちに観てもらいたい。最初に大阪公演に行った動機もそうだった。元来、腰が重い性分である私に、「最強の一人芝居フェスティバル:INDEPENDENT」で出会った大阪の演劇人たちが、「早く作品を持っておいで」と何度も声をかけてくれたのが大きかった。そこまで言ってもらえるなら-と、多少のリスクを冒してでも作品を見せたい気持ちになった。そして、ずっと声をかけ続けてくれていた大阪の演劇プロデューサーに公演の相談を持ちかけた時にも、親身になって助成金申請の情報やアドバイスをくれたり、宣伝広報などの仕事を率先して手伝ってもらったりした。そうなったら、さらに「別の作品も見て欲しい」という考えが湧いてくる。

また、まだ見知らぬ人々と演劇作品を通して出会いたいという気持ちもある。本来は地元札幌の人たちも含めてのことなのだが、どうしても見知った顔に観てもらうことが多くなる。それはそれでとても安心するし、普段の活動を支えてくれている大切な人々なのだが、見知らぬ人と演劇を通じてコミュニケートするというワクワク感や、作品を通して演劇仲間と語り合う機会も同じくらい大切に思うのだ。

 


ツアー公演『きつい旅だぜ』の東京・こまばアゴラ劇場での楽屋風景

 

とはいえ。現実的な話をすると、東京や大阪といった大都市は行きやすいことが大きい。北海道から出ようとすると、まず飛行機だ。東京や大阪は便数も多いし、LCCもたくさん飛んでいて費用を抑えることができる。ある程度、集客を確保できるんじゃないかと踏める。本当は、以前、演劇イベントで足を運んだ他の地域にも、もう一度行きたい場所はたくさんあるのだが、どうしても費用面で二の足を踏んでしまう。

それを解決するためには、少人数かつ舞台セットを使わない、みたいなミニマムな作品を作るしかないのと思うので、今後はそういう作品・企画を増やしていこうかとも思っている。が、台本を書くことが最も高いハードルだ。まずは台本……台本だ! 『きつい旅だぜ』という作品も出来るだけシンプルかつ比較的少人数の設定を据えたのだが、それもツアーをしやすいためという理由が大きい。

『きつい旅だぜ』の東京公演が満員御礼になったのはいくつか要因がある。1つ目は、先に書いた、こまばアゴラ劇場の提携プログラムに選ばれたこと。こまばアゴラ劇場では支援会員を募っており、その会員たちが一定数観に来て客席を埋めてくれる。次に、初めての東京公演ということで、昔の知り合いなどが大挙して来てくれたこと。言うなれば同窓会感覚だろうか。そして、出演者のファンのみなさんが来てくれたこと。劇団としての東京公演は初めてだったが、出演者それぞれが東京公演を経験していたり、一定のファンを呼んでくれていたりした。ましてや、観劇人口が札幌とは桁外れな首都圏であるということが大きい。…そんなことも影響していたかもしれないが、ちょっと出来すぎではあった。とはいうものの、2回目の公演にすぐに行こう、とならないのはやはり費用がかかるのと、うまくやらないと集客に苦戦することが目に見えているからだ。

2016年、『しんじゃうおへや』という作品を持って訪れた初めての大阪公演では満員御礼だった。『きつい旅だぜ』の東京公演と似たような現象が起きていた。だが、翌年の大阪公演は集客が伸びなかった。知り合いからすれば新鮮味が薄れ、yhsを知らない観客層にはどういった団体なのかが届いていなかったからだろうと分析している。旅公演に限らないかもしれないが、観客を増やすには結局、地道にお得意さんを増やすかしかないのではないかと思う。有名人などを出せば、一時的に集客に繋げられるだろうが、観続けてもらわないと劇団を続けている甲斐がないなと個人的には思う。そのためには、多少の赤字は覚悟して作品を持って北海道外に通い続けなければいけないだろう。

予算の確保はとても重要である。yhsでは基本的に公演の予算はチケット収入、グッズ販売収入、助成金(芸術文化振興基金、北海道文化財団など)でまかなっている。ここ数年、活動実績を認めてもらえてきたのか、助成金を多くもらえているのはとても大きい。助成金がなければ、大赤字確定である。旅に出ることで普段の活動が苦しくなるのは元も子もない。

というのが、基本的な私の旅公演についての考え方だ。「人に会いたい。作品を見せたい」という想いと、「そうは言っても先立つものが」という理性のせめぎ合い。そのバランスを持って旅の計画を練っている。だが、何よりも大事なのは「いい作品を作る」ということだ。「いい作品」を作ってこそ、人に見せたいという気持ちも湧くし、手を差し伸べる人も出てくるし、助成金の申請が通るのだと思う。

 

 

●南参
なんざん 劇団「yhs」代表、脚本家、演出家。1997年、yhs結成。さまざまな社会現象をシニカルな視点で捉え、問題点や矛盾点を巧みな笑いによって浮かび上がらせる脚本と、プレイヤーと呼ぶ俳優たちの個性を前面に押し出し、「人間」を強く浮かび上がらせる演出を得意としている。2013年放送のNHKドラマ「三人のクボタサユ」の脚本担当、札幌市教育文化会館の「子ども演劇ワークショップ」にて講師、同ワークショップの公演にて作演出を手がける。日本劇作家協会北海道支部長。
・yhs HP http://yhsweb.jp/
・yhs Twitter @yhsweb
・南参 Twitter @Nanzan77

●yhs公演情報
・3月6~15日「14歳の国」 レッドベリー・スタジオ
・8月1~8日 札幌演劇シーズン2020-夏「ヘリクツイレブン」 生活支援型文化施設コンカリーニョ

text by マサコさん

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