この作品が「札幌演劇シーズン2020-冬」で上演されると聞いた時は心踊りました。
本作は、『〜探偵写楽弥太郎シリーズ〜 kidnapping the riceball』(2016.8)の久保さんの怪演で鮮烈な旗揚げを飾ったきっとろんどんさんの第2回公演作品で、初演は2017年4月。同カンパニーはその年の11月に第3回公演でTGR新人賞にエントリーし、惜しくも受賞には至らなかったわけですが、この『発光体』でTGRに出ていたなら圧倒的な支持で受賞していたのではないかと僕は常々思っていました。
本作の魅力はいくつも挙げられるのですが、ネタバレに繋がるのでそれは後半に書くとして。
カンパニー自体の魅力を挙げると、所属役者(山科連太郎・リンノスケ・久保章太)個々のキャラクター性の高い役者力と、作演(井上悠介)が作り出す独特の…うーん、なんて言ったらいいのかなあ。。。。「演技空間」とでも言いましょうかね、独特の笑いのセンスに満ちたその演技空間にあると思うわけです。
特に初期作品においては、客演レギュラーのむらかみなおさん、泉香奈子さん、たねだもときさん等も含め、個々の役者がアドリブで笑いを作っているかのような独特のゆるい「間」とセンスで組み上げられた、セリフのやりとりや独り言の絶妙さ。しかもそれはアドリブではなく全て台本にあるのでしょうから、作者の役者への信頼感が秀逸な作品作りに繋がっていると感じていました。
反面、旗揚げからあまりにも観客(その多くはおそらく見知った演劇人)の支持を受け、ちょっと意地悪な言い方をすると「身の丈以上の笑いを客席から獲得している」と感じられてしまう状態で、この先大丈夫なのかなあという余計な心配もしちゃったりもしていたのですが、メンバー個々が外部公演等でも鍛えられ、客席にスポイルされることなく真摯に進化してきた結果が今回の札幌演劇シーズンに繋がったのだと感じました。(あ、なんか偉そうですみませんが← 笑)
(以下、ネタバレ含みますので注意)
さて本作についてですが。
夏休みを間近に控えたとある田舎の中学校。東京から転校してきた美少女。「宇宙人」がクラスに紛れ込み事件が起きる。――そして大人になった彼らが、ふたたび「あの日」の化け物と対峙することになり――。
初演時に僕は、スティーブン・キングの『IT』をすごくイメージしました。今なら『散歩する侵略者』も挙げるかも知れません(それについて当時井上さんに尋ねたところ、特に下敷きにした物語はないとのことでしたが)。サイコホラー、コメディ性、そして終盤のノスタルジックな展開と、ゆるさの中で物語をまとめていくバランス感覚が素敵です。
そして何と言っても、映画ならSFXにしようかというシーンをリンノスケさんのダンスで表現してしまう点。この不気味さは唯一無二のキャスティングで初演でも光っていましたが、今回はさらに転校生(大森弥子さん!)も加わって衝撃的。シーンによっては芝居と舞踏のコラボのようでした。また、ダンスだけではなく初演時より格段と役者力の上がったリンノスケさんが、より小さな動き(全身を使わずとも手先や顔の動かし方だけで異様さを表現)で不気味さを倍増していたのも年月の経過を感じさせました。
その風貌が一見ヤンがかって見える(失礼)山科さん。ちょっとお調子者の役なのですが、本来とても生真面目な方なんでしょうね、そんな山科さんの真っ直ぐさが大人になっても変わらない(役柄の)人間性を感じさせ、モノローグとあいまってノスタルジックな気分にさせるのでしょう。(ただし微妙なエンディングの違いで、初演の方がそのノスタルジー感は強かったですが)。
また、本人の事情で再演ではお目にかかれないと僕が勝手に思い込んでいた たねだもときさんがしっかりと参加されていたこともとても貴重でした(特に本作にはなくてはならないポジションなので)。
初演にも参加していたかのような五十嵐穂さんの馴染み具合や、ほかすべてのキャストにしっかりスポットが当たる脚本と、それに応える役者の面々も井上作品ならではという感じ。
ひとつ物足りなさを挙げるとすれば、前述した独特の「演技空間」の面白さが。。。今回は、あまり僕には感じられなかったこと。まだ初ステだったからなのか、それともその個性は初期の一過性のものだったのか……これについては、今後のきっとろんどんさんの作品を観ていく中で分かることなのかも知れませんがね。
text by 九十八坊(orb)