≡マサコさんの部屋 2020年、年始め企画≡   「ツアー公演先の宣伝ってどうするの?」 part5

 私的な話で恐縮だが、私には中学時代の文通(!)を機に長々と交流が続いている友人が名古屋にいる。知り合った当時、彼女が「演劇をやっている」のを「ほー、そうなんだ」くらいにしか思っていなかったが、その後、私が仕事で演劇に携わることになり、一方の彼女は劇団のほか演劇に関する仕事をするようになった(というわけで、名古屋の演劇事情が人並み以上に耳に入ってくる)。人生はわからないものである。さて、2018年に空宙空地が札幌公演を企画していることを知った私は、「何か応援できないか」と件の彼女を介しておぐりさんと知り合い、マサコさんの部屋でも紹介した。その札幌公演を含めて空宙空地のツアー公演の手法を見ると、いかに「アウェーでのハンデを克服するか」に重点を置いているかがわかる。そのポイントを解説してもらった。

(マサコさん)

 

◎寄稿者/おぐりまさこ(空宙空地代表、俳優、プロデューサー)

 

「アウェー」のハンデを克服する

空宙空地は2014年以降、毎年、必ず拠点の名古屋以外での上演を行っています。空宙空地単独での他地域公演は5回、そのうち複数の地域へ出向いたツアー公演を2回行いました。一方、名古屋以外の地域で行われる演劇祭や演劇フェスティバルへの参加は、これまで10都市延べ16回。今年も3つの演劇祭への参加を予定しています。

ツアー公演先での主な宣伝方法-すなわち、その土地の人々に「空宙空地」を認知してもらう手段は、年間計画を立てて行っています。具体的には、車1台に道具や衣裳を積んで各地を回るような小作品を何作か創作し、ツアーに出向きたいと思った地域で開催される演劇祭や演劇フェスティバルへ参加し、「まずは小作品を上演する」ことから始まります。

この手段の大きなメリットは、大きく3つあります。

1.少ない予算で他都市上演ができる
2.他の団体を目当てに来場した観客に私たちの作品を観てもらえる
3.現地で演劇に関わる仲間ができ、周知してもらう幅が広がる

全く知られていない状態でツアーに出向くより、上の1と2があることで、団体や公演を紹介する記事にも興味を持ってもらいやすくなり、さらには3によって口コミに信頼性が増し、「観てみよう」という動機に繋がりやすくなると考えていますし、実際にツアー公演で「大好きな俳優が薦めていた団体だから来てみた」「前に観た短編が面白かったから楽しみにしていた」という声をたくさんいただきました。

ところで、空宙空地は元々、私一人の演劇ユニットとして立ち上げたのですが、より強度ある作品や公演を創るために、作・演出・俳優をこなす関戸(哲也)を誘い、二人体制になりました。その頃から、全国各地でたくさんの作品を上演することを目指すようになり、そのために何が必要かを考えた結果、「単独ツアー公演を敢行する前に、現地の方々に私たちと私たちの作品を知ってもらう」ということに重点を置くようになりました。

そんな時に出合い、その後の空宙空地の運命を大きく変えた企画が、大阪を拠点として15年以上開催されている「最強の一人芝居フェスティバル:INDEPENDENT」です。14年に上演した一人芝居『ライト』が同フェスの札幌公演、福岡公演に招聘されました。翌年、同企画の名古屋版「INDEPENDENT:NGY2015」で上演した『如水』が本選に選出、さらに16年の全国ツアーに同作が選ばれたことで、札幌・福岡・津・大阪・沖縄で上演することができました。これをきっかけに、長野でも同作を上演する機会をいただき、ツアー公演への下敷きが一気に広がりました。

空宙空地 4都市ツアー公演
「ふたり、目玉焼き、その他のささいな日常」より
一人芝居『如水』

また、私たちの団体は所属が2人しかいないので、客演を招くことが多々あります。そのため、いきなり団体単独でツアー公演をやってしまうと、金銭的負担が大きくなり過ぎ、疲弊し、ツアーへの意欲を無くしてしまう恐れがありました。だから、集客への足掛かりとして、「私たちを全く知らない人に作品を観てもらえる場所」を探しました。そこで上質な作品を上演をすれば、単独ツアー公演にも興味を持ってくださる人が出てくるかもしれない、そして口コミで他のお客さまを導いてくれるかもしれない、と考えたのです。

実はこれが、予期していなかったもっと大きな力を得ることになったのです。それが、「各地に応援してくれる仲間ができた」ということです。

『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』をもって札幌を訪れたのは、18年11月です。それ以前も札幌には先述の「最強の一人芝居フェスティバル:INDEPENDENT」で3回、コンカリーニョ主催の「ペアプレイパレード」という二人芝居の演劇祭に1回参加しています。どちらも複数の短編作品が上演されるので、道外から来た私たちの作品の内容は覚えていても、ツアー公演のチラシを見ただけではその団体だと認知されない可能性が大きいと考えました。

そこで、以前から懇意にしていただいている明逸人さんと澤田未来さん(2人ともイレブンナイン所属)に、関戸が作った短編戯曲を本編の前に上演してもらいました。札幌の演劇ファンの人たちに「(澤田さんと明さんの)2人も観られるならば、空宙空地を観に行ってもいいかな」、と思っていただけるかもしれないと考えたからです。

さらにありがたいことに、明さん澤田さんをはじめ札幌の演劇仲間が、こぞって宣伝に協力してくださり、SNSでの動画配信や稽古場訪問などをしてくれました。ふたを開けると、札幌公演の約半数のお客様の来場動機がここにあったようです。

今回、空宙空地が初めて参加する「札幌演劇シーズン」での上演では、『轟音-』のツアー公演や、昨年の「教文短編演劇祭2019」で空宙空地を観ていただいた方々が、さらに知人を誘ったり、私たちの作品を薦めてくださったことで予約が相次いでいます。

空宙空地 4都市ツアー公演
「ふたり、目玉焼き、その他のささいな日常」より
『ふたり、目玉焼き、その他のささいな日常』

つまり、空宙空地の宣伝方法の真髄とは、

「良質な小作品を用意し、誠意をもって地方の企画に参加すること」
「全国各地に演劇の仲間を作ること

になるのではないかと考えています。
最後に、私たちは「ツアー公演する意義」を以下のように考えています。

1.作品と俳優を知ってもらい、年間でより多くのお客様に届けることができる
2.各地の文化や嗜好を知ることや忌憚ない感想をいただくことで、創作の糧がぐっと増える
3.アグレッシブに活動をしている団体だと認知される
4.ツアー先でできた仲間が創る良質な作品を、逆に、自分たちの拠点のお客さまに観ていただくきっかけができる

団体の人数や活動形態、所属メンバーの生活環境は様々だと思います。どうしたら金銭的心身的に「疲弊せずに」他地域公演ができるかを探ることが大切なのかもしれません。

●おぐりまさこ
愛知県名古屋市生まれ。2001年、タレント事務所に所属。テレビドラマ、CM、ナレーション、舞台など延べ200作品以上に出演。18年「火曜日のゲキジョウ30GP」(大阪)で俳優賞を受賞。

●空宙空地
くうちゅうくうち 2013年旗揚げした、名古屋を拠点に活動する関戸哲也×おぐりまさこの演劇ユニット。津・大阪・札幌・東京・長野など他地域にも活動範囲を広げる。日々注目を浴びることもなく懸命に「とにかく生きる」人の姿を通して、ヒューマンコメディを描く。『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』は、名古屋市民芸術祭2016で特別賞(奨励賞)受賞、18年の再演ツアーでは、札幌劇場祭TGRで優秀賞受賞。19年の札幌短編演劇祭で2人芝居『ショウアワセルフ』で優勝、関戸がベスト俳優賞を同時受賞。

・空宙空地HP http://www.coochuhcoochi.com
・空宙空地Twitter @kuhchu_kuhchi

●空宙空地次回公演
『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』(札幌演劇シーズン2020-冬-参加作品)
・生活支援型文化施設コンカリーニョ
・2月1日(土)~6日(木)
・一般3000円、学生1500円
・CoRich舞台芸術!(https://stage.corich.jp/stage/103834)などでチケットの予約が可能

text by マサコさん

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