≡マサコさんの部屋 2020年、年始め企画≡   「ツアー公演先の宣伝ってどうするの?」 part6

 札幌で活動する劇団のうち、まあまあ名前が知られていて、観客動員数も安定していて、演劇のイベントでも見かける団体であれば、「ツアー公演は経験済みだろうなぁ」と思ってしまう。などと考えながら、この企画の寄稿をお願いする人を思い浮かべていたら、「あれ?小佐部くんって…ツアーやってないよね?」と気付いた。全国規模の演出家コンクールで入賞し、本年度のAAF戯曲賞一次通過-など、道外でも実力を認められてきている小佐部くんに、「ツアーに出ない理由」を書いてもらった。

(マサコさん)

 

◎寄稿者/小佐部明広(クラアク芸術堂代表)

 

ツアーに出ない理由

音楽に、全国を回る「ライブツアー」があるように、演劇にも「ツアー」なるものがある。演劇をやっている人なら一度は憧れたことがあるだろう。「俺、この前ツアーで大阪行ったよ」。うん、言ってみたいセリフである。「ツアーで全国回ったんだよね~」。うん、かっこいい。

僕は「ツアー」をやったことがない。道外ツアーはおろか、道内ツアーもやったことがない。「ツアーやんないの?」と気軽に言われたりする。なんなら劇団のメンバーからも「そろそろツアーやんないんすか?」とか言われる。いや、やってみたい気はある。でも「行きたかったのでディズニー行ってきました!」みたいな気分で、「やってみたかったのでツアーやりました!」はできない。なぜなら地元でやるのと違って、飛行機代、宿代が圧倒的にかかる。舞台装置の運送費もけっこうかかる。しかも、地元でやるより確実に観客が減る。……こう考えると、わざわざツアーとかやる必要あるんだろうか?

だいたい、「ツアーをやったらかっこいい!」みたいな理由でツアーをやっても、代償が大きすぎる。「ツアーやってきました! たくさん借金しました!」じゃ、かっこもつかない。いや、この歳になったらかっこいい、かっこ悪いは別にどうでもいい。そもそも、ツアーでやるような作品ってなんだろうか? 新作をつくってツアーするのか? 公演を何回もやってきた人ならわかると思うが、「これは評判がいいはずだ」と思ってたら案外評判が悪いことや、逆に「これはあんまり評判よくないかな」と思ってたら案外評判がいいことは、ままある。もし新作でツアーを回ると決めて、地元で評判よくなかったら、そのあとどんな気持ちでツアーをやればいいのだろうか。いや、だめだ、新作は控えたい。となれば、過去に上演した作品で評判のよかったものでツアーをやるべきだ。うん、これならアリだ。東京はけっこう観客の目が厳しいと聞く。クオリティの高い作品にするべきだ。しかし、自信をもって「これはクオリティが高い」と言われる作品はあるのか? ちょっと自分では判断がつかないところである。だが、これは周りに聞けば、ある程度しぼれるだろう。やる作品は、なんとか決められるかもしれない。

2016年にシアターZOOで上演された
『汚姉妹-呪われた少女-』の一場面(種田基希撮影)

 

ところで、ツアーをやるメリットはなんなのだろう? これは、まあわかっている。創作する人間からすれば、「普段やっているとことは別のところで上演したら、観客はどんな反応をするんだろう?」というのは気になるところである。地元では通用するが、東京では通用しないのか? 大阪ではウケるのか? うまくいけば、創作に自信になるはずだ。

だが、それだって、ある程度、観客がたくさんいる前提の話だ。仮に観客が50人しか来なくて、その人たちに評価されたとして、それで満足できるだろうか? いや、僕はできない。また集客の問題だ。札幌に来る道外の劇団を思い出してみよう。観客が入っているか? 多くの公演が、かなり苦戦している。二度と来ない団体だってたくさんいる。それに、やはりツアーで来ることを想定しているせいか、舞台装置も簡素なことが多い。もちろん、面白いところはある。「なるほど、道外の団体は、こういう俳優がいて、こんな演出がされているのか」と感心もする。ツアーが成功しているように見えることもある。自分たちもそうなれるのか? まったくもって課題は山積みである。

僕はツアーをやりたいと思っているのに、なんと壁の多いことか。もういっそのこと「行きたいからディズニーランド行く」みたいなノリで「行きたいからツアー行く」ってやってしまおうか? それができなければ、自信をもって外の人に見せられる作品で、しかもかなり多くのお客さんに見てもらえて、経済的にかなりの余裕が生まれたときに、ようやく実現することになるだろう。

●小佐部明広
こさべ・あきひろ 1990年、札幌生まれ。高校から演劇を始め、北海道大学の演劇サークルを経て、2011年に「劇団アトリエ」を旗揚げ。以降、劇団終了の2016年まで全ての演出とほとんどの脚本を担当。演出・脚本を担当した『もういちど』がTGR札幌劇場祭2011で新人賞。『ともこのかげ』で第3回せんだい短編戯曲賞ノミネート。『瀧川結芽子』で若手演出家コンクール2015で優秀賞。2015年TGRアカデミー奨学生。
・クラアク芸術堂HP https://www.clark-artcompany.com/kosabeakihiro
・クラアク芸術堂Twitter @clarkartcompany

●小佐部明広次回公演

クラアク芸術堂 Masterworks#03『汚姉妹-呪われた少女-』(札幌演劇シーズン2020-冬-参加作品)
・扇谷記念スタジオ シアターZOO
・2月7日(金)~15日(土)※ダブルキャストあり
・一般3000円、学生1500円
・チケットの予約、問い合わせはクラアク芸術堂 clark.artcompany@gmail.com

text by マサコさん

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