いやー、面白かった!ホント、面白かったです。井上悠介の本とシグナチャーのある作風が実に秀逸。個人的には映像を使った演出は好みではないのだけれど、ビジュアルもビシッと決めてくれました。入れどころもうまかったなぁ。「きっとろんどんはいいよ。一度ぜひ観てみて」とお芝居好きの友人たちから「噂」は聞いていたけれど、噂以上で感動した。
ドラマを担当していたころ、東京に出張すると毎晩のように下北沢通いをしていた。本多劇場やスズナリはもちろんのこと、特に駅前にある駅前劇場や「劇」小劇場で芝居を打つ野心満々だったり、なんだか知らないけれど芝居熱にあふれた無名の劇団の芝居を観るのが好きだった。ナイロン100℃や大人計画、劇団、本谷有希子もそうして育ったし、札幌にも来てくれるようになった京都を本拠地にするヨーロッパ企画もそうだ。これからご覧になる方には、激奨したいと思う。快作!大化けする、予感がある。
きっとろんどんは、2016年に作・演出を担当する井上悠介、久保章太、山科連太郎、リンノスケの男4人で結成したユニットだ。「発光体」は旗揚げ2作目の作品で初演は2017年。3日で400人を動員したというから大したものだ。札幌演劇シーズン参加作品になるとチケット代も高くなるし、トップバッターとしての責任感ひしひしだと思うけれど、今回、BLOCH(定員100人)での12ステージ。1,000人超える快挙だったそうだ。
演劇、演劇していなくて、なんだろう、舞台なのだけれどが、昔のテレビ番組でいえば「笑う犬」とか「トムとジェリー」の笑いの質のようにも感じた。ディテールがしっかりしているのも好感。小道具として懐中電灯がよく効いていて、暗転した舞台で観客席の後ろから聞こえてくる台詞だけで見事に成立させる。人物を映さない、ほとんど放送事故かと思うほどの黒味満点な夜間ロケなど、独自の世界観をつくってしまった「水曜どうでしょう」のリズムのようなものも感じた。
ギャグだとか、アドリブの身内ネタではなく、ちゃんと台詞と芝居で観客を物語に引き込んで笑わせてくれる。簡単なようだけれど、とても難しいことだと思う。1時間50分とどちらかといえば長尺の芝居だけれど、実に巧みな筋立てと構成で魅せてくれた。人物もよく彫られていて、客演の俳優陣もチャーミングな持ち味を発揮していた。個人的には、本作が初舞台という七瀬ヒカリ(このネーミングセンスもいいですね。とても懐かしです)役の大森弥子(Takako Classical Ballet)がとても印象的だった。3歳からクラシックバレエを学び、北見から札幌に出てきてコンテンポラリーダンスと出会って衝撃を受けたという。柔らかい身体で、あんなに湾曲するんだ、とか、関節ってあんなところで曲がるんだとか、それはそれでちょっぴり怖かった。リンノスケが札幌演劇シーズン2019-冬で演じた千年王國「贋作者」の鴈次郎は格好良かったけれど、本作ではほんとにぬるっと得体が知れない感じがして好きだった。
オープニングで流れるテレビ番組映像からヤラレタ(小島達子、小林エレキ、山田マサル)。ホントに懐かしい日テレの「木曜スペシャル」!日本でUFOものや超能力ものを流行らせた伝説のテレビディレクター、矢追純一大先輩を思い出した。Wikiで調べたら御年84歳、どうやら現役らしい(怖いですね)。本編の冒頭で転校していなくなる南戸ユウ(井上)、河原で凧揚げしている謎の関ヶ原タカシ(木山正大)、宇宙人研究機関の結城(塚本奈緒美)と軒並み伏線を回収していく。終幕の回収はちょっと遠かったけれど、「そこっ!」とイマジナリーラインを超えて気持ちいい。もうひとシーン前の北大路(山科)の「ごめん」という台詞で終わっても割とじんわりと余韻が来たと思うけれど、人類を救ったはずの北大路の困惑した表情がこの劇の上がりを象徴していたと思う。作家性のある優れた本とちゃんと立ち位置を与えられている人物たち。大きな伸びしろを感じたし、なによりも全員が楽しんで芝居をやっているのが伝わってくる。
そういえば、中学2年生の時、詩子ちゃんというとても髪のきれいな美少女が転校してきて、僕は恋に落ちた。詩子ちゃんと僕はお付き合いをして、学校近くの公園のベンチの裏に咲いていた夾竹桃の茂みの中でキスをした。今でも詩子ちゃんの顔を思い出すことができる。だからといって、「詩子ちゃんが、人間だったって言えんの?」と聞かれたら、うーん、とうなってしまいそうな気がしないでもない。
2020年1月27日(月)19:30- BLOCH
text by しのぴー