不屈のナイチンゲール All Sapporo Professional Actors Selection『虹と雪、慟哭のカッコウ』

札幌冬季五輪が開かれる前年の1971年。街が変わり人も変わるさなかの札幌にある精神病棟が舞台。プロ野球巨人軍は1965年から1973年までセリーグ優勝と日本シリーズ制覇を続けV-9を達成する。そんな昭和真っ盛りの時代。

当時札幌の精神病院では「電気ショック療法」も「ロボトミー手術」も普通におこなわれる確立された治療法であった。その前衛に立って患者に対峙するのが西田薫演じる森川婦長だ。すさまじい信念で不屈のナイチンゲールを出現させた。

精神病患者が個性的なのは自明かもしれない。が、演じた、水津聡、小林エレキ、川崎勇人、山田マサルは自分に正直であるがゆえに病棟に退避せざるを得ない苦衷をそれぞれに好演し、見ていて面白かった。と、いえば語弊があるだろうか。出色は水津演じる、つとむ。いい年をして母親(磯貝圭子)にかまわれ過ぎるつとむはいわゆるマザコンで吃音者である。そして母親が森川婦長の親友だというのが事情を複雑にしている。

患者のなかでヌシと呼ばれ二風谷のアイヌ酋長の末裔を演じたのが納谷真大。病棟では聾唖者を装うことで居場所を確保している。そして刑務所から病棟に送り込まれてきた金子たけし(斎藤歩)は刑期逃れの詐病を疑われている。ギタリスト山木将兵はギターに執着する患者役で俳優デビューを果たしオリジナルサウンドの演奏を続けた。

たけしはもうすぐ刑期が終了して娑婆に戻れると思っているが医師や婦長の判断次第でそうではないと知らされ愕然とする。

秩序ある「治療」とは患者の尊厳を踏みにじる「罰」である。たけしが婦長に歯向かう言動にほかの患者たちも影響を受けていく。ミニ暴動が起き、小脱走を手助けする男性看護師まで出てくる。精神病棟は私たちの社会を映す鏡ではないか。聖俗一如の理を知るのは病棟に鎮まっている慈悲の女神像だけだろう。

病棟を不意に訪れた、たけしの女友だち、はる(小橋亜紀)はキュートだ。はるにつとむが恋心を芽生えさせる。たけしのお膳立てで淡い交情が濃厚接触へと進化したとき幸・不幸のベクトルがもつれて劇のクライマックスが訪れる。ベッドから戻ったつとむは母親と森川婦長に囲まれ自死へと駆け出すしかない。つとむをはるにけしかけた、たけしのせいだと難詰する森川婦長。
ここから悲劇の大団円となる。婦長の首をしめた、たけしはロボトミー手術をされる。
手術から戻った車椅子のたけしをヌシは憐れんでか毛布で窒息死させる。

暗い結末だ。

本作は精神病患者と家族、女友だち、医師・看護師16人が激突する群像劇の見どころとして、それぞれの人物造型に見事に成功したのではないか。作・演出の納谷真大は「12人の怒れる男」の演出、出演で見せた力量をいっそう発揮した。「12人の怒れる男」に出演した5人の男優が本作に出演している。演出をサポートするドラマトゥルグを担いながら、主演の斎藤歩は精神病棟ものに大きな実績を持っている。翻案・演出・出演の「亀、もしくは・・・。」で正常と異常のボーダー問題を鋭く提示した。「象じゃないのに・・・。」で暴走した象の飼育員の心の闇に分け入った。これまでの「納谷」と「斎藤」が止揚して結晶した作品だと強く感じた。

この公演は3ステージを残して2月29日と3月1日が中止になった。
新型コロナウィルスと闘いながら10ステージをやり通したスタッフ、キャストの不屈の努力に敬意を表したい。

2020年2月27日(木) 14:00 札幌市民交流プラザ クリェイティブスタジオ
All Sapporo Professional Actors Selection vol.1
虹と雪、慟哭のカッコウ ~ SAPPORO ’72 ~

text by 有田英宗(ゲスト投稿)

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