2019年度の観劇体験から感じたこと

2019年度「記憶に残った作品」として、劇団怪獣無法地帯の2作品『傾国の美女~アラビアンナイト~』『散ル 咲ク ~わらう花』と、演劇家族スイートホームの『わだちを踏むように』をボクは上げます。選んだ理由を安西徹雄氏の著作から引用して説明してみます。

たとえ一緒の仕事はしなくても、同じ集団のメンバーとして、比較的近い所で、違うカンパニーに入っているとか、間接的に共同作業に参加するというような形で集団が続いてゆくと、十年か十五年も経つうちに、お互いが同じリズムで成長するというか、成熟を共有してゆくということがあるんですよね。シェイクスピアの劇団で起こっていたのは、まさに、この種の成熟だったと思うんです。そういうことがもしできれば、プロデューサーが寄せ集めてきて作る一座とはまったく違った、ある永続的な信頼関係と、内的な持続性にもとづいた創作活動が可能になる。
安西徹雄『彼方からの声━演劇・祭祀・宇宙』筑摩書房 128ページ

引用したのは、安西徹雄氏がシェイクスピアの「宮内大臣一座」と、ライバル劇団「海軍大臣一座」を比較した文章です。海軍大臣一座を今でいうプロデューサー・システムのようなやり方として、シェイクスピア劇団との違いを述べています。そして、ボクが上記の三作品を選んだ理由は、共通して劇団の力を感じさせた作品、という点にあります。
正直に言いますと、ボクはフリーの役者さんにはあまり興味が湧きません。あちこちの役者さんに声をかけてのプロデューサー・システムにもあまり興味が湧きません(観には行く)。それは推しの役者さんが一番輝くのは、当たり前かもしれないけれど自分が所属する劇団の作品で演じる時だと思うからです。特にスイートホームのメンバーが他の劇団で客演として出ても、あまり惹かれません(それほど観ていないけれど)。しかし、それがスイートホームの作品となったら抜群に映える。作品のピースとしてハマるというか馴染むというか自然なのです。これは経験が浅いからなのかな?とも思ったのですが、中堅クラスの役者さんでも同じような感じを持ったことがあるので、所属する劇団があるのは大事だな、と思いました。
次に怪獣さんですがツイートによると『傾国の美女』では新井田さんが企画の段階で、棚田さんに「インドかアラビアどっちがいい?」と聞いたらアラビアと即答しています。棚田さんは殺陣のことをイメージしてアラビアと答えたと記憶していますが(該当する動画を探し出せなかった)、アラビアンナイトと言えば伊藤さんが好きな泉鏡花も愛読していて、ボクは劇団としてのまとまりを感じました。そして再演である『わらう花』では劇団の成熟を感じさせます。動画で観た初演の時は客演でしたが、のちに劇団のメンバーになった役者さんもいます。代表、副代表に吸引力がある証拠でしょうか?また、ある演劇人は感想で「皆素敵」としつつも、特に印象の良かった役者さんを4名上げました。けれど、その中には怪獣さんに所属する役者さんの名前がありませんでした。多くの客演を活かせるのも劇団の成熟の証?ではないかと思います。
最後になりますがスイートホームの菊地さんが、怪獣さんの『わらう花』などで客演として参加しています。成熟の何かを感じとって、十年後、二十年後?のスイートホームに活かしてほしいと思います。

※フリーの役者さんならではのメリットもあるでしょうし、プロデューサー・システムを否定しているわけではありません。方向性の違いとでも言いましょうか?けれど東京と比較して札幌は「団体間での交流はさかん」(KPR/開幕ペナントレース 村井雄氏 『d-SAP』2018年2月16日の記事より)との見方もありますので、「永続的な信頼関係」を築くことは可能であると思っています。

text by S・T

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