とある町の職員が、町の有力建設会社、安藤建設の社員とサッカーの親善試合を行うという。試合当日、試合会場になる高校の教室に集まった職員。係長が試合のシナリオを配る。1対4で負けるというシナリオ。町長の選挙対策のため建設会社に協力をしてもらうためである。いわゆる接待サッカー。毎年のことなので誰も異を唱えない、一人を除いては。その一人は今年入職した新人職員、鞍馬。かつてこの町の高校のサッカー部員だったという。
「なぜ負けなければならないのか?」
「めんどくさいことになった」という先輩職員たち。やがてひとり、ふたりと鞍馬の問いかけに応じていく。最後には全員が「全力で勝ちにいく」ことを誓い試合開始。結果は1対-6で惨敗。しかし、全員がやりきった感を持って終わる。
「12人の怒れる男」を彷彿とさせる展開。「12人~」よりは緊張感が乏しいが、正論に屁理屈で応える丁々発止の議論。「勝つか負けるかは問題ではない。はじめから負ける意識が問題なのだ」という鞍馬の主張は、やがて職員全員に染み渡る。
登場人物のキャラクターが濃すぎ。バナナを100本は持っていて職員に勧める係長(リアルに食べる)、朝、7年前に消費期限が切れたレトルトカレーを食べておなかを下している職員(マラドーナ風)、もう一人の新人職員が体調不良になったため、代わりに参加した元極道の父親(体力なし)、悪そうな男好きの女性職員(ヤンキー風)、いつもビクビクしている職員(謎だ)、時間に妙に厳格な職員(いそうなキャラ)など、一人一人のキャラクターが際立っていた。こうした濃いキャラを持つ登場人物が12人もいるので、一人一人から目を離せなかった。南参さんはこういう濃いキャラクターを作るのがうまいよなぁ。
役者さんは、鞍馬役に櫻井保一、安藤役に能登英輔(双子の兄弟、武蔵と小次郎の二役で、安藤建設経営者の親族)、マラドーナにどことなく似ているキャラの渡邉ヨシヒロ、元極道に松本直人、その他、山田プーチン、氏次啓(札幌FEDE)、佐藤亮太(NEXTAGE)、青木玖璃子、最上怜香、佐藤杜花、増田駿亮、小原アルト。
ストーリーは分かりやすいし、役者さんの滑舌も良かったし、一人一人のお芝居も良かった。いうことなし。しかも、お芝居の一番最後で、鞍馬(櫻井)と、先輩職員安藤(能登)のリフティング対決がある。100回リフティングするという対決で、初日はお互いに30回を超えたところで失敗したが、これはまさにリアルなお芝居だから緊張感がある。うまい演出だと思う。千秋楽までに成功するのだろうか。成功したらどんなエンディングになるのだろうか。
ですが…。
そのタイトルの面白さゆえ、内容への期待が大きかったからか、場面場面で笑えても腹の底から思いっきり笑えなかった。もしかすると笑いのツボが小生の感覚とは違っていたのかもしれない。
『ヘリクツイレブン』(脚本・演出:南参) 札幌演劇シーズン2020-夏
上演時間:1時間51分(途中10分間の空気入れ替え時間あり)
2020年8月1日14時
コンカリーニョにて
text by 熊喰人(ゲスト投稿)