このお芝居は、2012年9月26日と2016年8月21日の2回観ているので、今回で3回目。リーフレットを読めば弦巻楽団として今回が5回目の上演とのことなので、小生、そのうちの3回を観たことになる。しかも、前回は深浦佑太さんと村上義典さんがダブルキャストだったにもかかわらず、深浦バージョンを観たので、3回とも深浦「果実」。
今回のキャストは、主人公の梳々月(るるづき)桃太郎に深浦佑太、もう一人の主人公、夏緑杏に塚本奈緒美、その父、夏緑柿右衛門に温水元、母親、夏緑柚に澤里有紀子、杏の主治医役に木村愛香音、移植コーディネーターに阿部邦彦、テレビ局AP役に相馬日奈、ドキュメンタリーカメラマン役に百餅。前回のキャストを振り返ると深浦・塚本・温水は一緒だった。このお芝居の中心人物は、梳々月・杏・柿右衛門なので、その3人が前回公演と一緒ということは、観ていても安心感がある。
現に、3人のお芝居は実にこなれていて、最初からお芝居に引き込まれてしまった。前回から4年の歳月が過ぎたが、それだけ役者さんも年齢を重ねているわけで、それがお芝居の奥深さを演出しているように感じた。マチネであるにもかかわらず、不覚にも途中で涙が出てしまった。
深浦さんのあの語り口は、何ともいえない味わいがあるので好きだなぁ。塚本さんも4つ年を重ねたわけだが、前回より透明感が増し魅力的だった。温水さんは、前回以上に爆裂していたような。しかし、はしゃぎまくる姿が単なる道化ではなく、そこはかとない寂しさを醸し出していたが、これも温水さんが経験してきた4年間の生き方が反映されていたように思う。
そして、3人以外にとくに良かったのが母親役の澤里さん。自然なセリフ回しとお芝居は最高だった。物語の最後の方で、杏の移植を中止するよう夫に語りかけるセリフと所作は、ストーリーそのものを転換するという意味で大事な場面だが、ここでの澤里さんの演技は複雑な心の動きを見事に体現していた。
素人目で見て、お芝居はどれだけ感情移入できるかがひとつの鍵だと思う。そういった意味で、今回の「果実」は、前回以上の出来だったように思う。
そういえば、前回は気付かなかったが、演出家の得意とするのがシェークスピアだからこそロミオとジュリエットが題材として使われていたということに気付き、思わず「そうだったか」と納得した。同じ劇団のお芝居を何度も観るというのは、こういった新しい気付きをもたらしてくれる。
「存在の不在」という言葉が何度か繰り返されるが、この何とも哲学チックな表現は、杏のお芝居での立ち位置を説明するには、しごくもっともな表現だということにも気付かされた。同じお芝居を何度も観るのも悪くない。
上演時間:1時間37分
2020年8月15日14時
サンピアザ劇場にて
text by 熊喰人(ゲスト投稿)