ガリガリ博士―寺山のイタコが今を語る  劇団風蝕異人街『ザ・テラヤマ―ガリガリ博士の遺言』

本日から公開の動画、風蝕異人街の「ザ・テラヤマ―ガリガリ博士の遺言」を観る。
話は支離滅裂。想像力の戦場である。

棺桶に花を手向ける人々が、寺山の名言を口々に言う。この劇のテーマは記憶の呪縛と記憶からの自由だと棺桶から起き上がったガリガリ博士は言う。テラヤマもガリガリ博士も37年前に世を去った。私はコラージュで自由を手に入れる。アップテンポな曲に合わせてメイドがポップな身振りのダンスを踊る。音響・ダンス構成柴田詠子さん。後ろに堀きよ美さんの書いた母子像。左右に短歌を塗りつぶした家という文字。私の血のなかにいつも鉄道が走っているとメイドが語る。額縁に入った男が主人の真似をして笑われる。この劇の狂言回しの主役は額縁。役者が額縁の中に交代に入って役割を演じ変える。例えば、主人と召使の交代。

ハエを取る女中頭。女中たちがハエを叩きまくる。箱の中に閉じこもって半裸で食事をしているお嬢様。外は疫病で大騒ぎだと女中が言う。男女が代わる代わる天体望遠鏡をのぞく。金星をのぞいて交流している。額縁と望遠鏡を交互に行き来して話す。

私の家族はみなスクリーンのなかに居るんですという襦袢の女。葬式の花売りが来る。主人が死んだ館は狂気の病棟と二重写し。

メイドや襦袢の女が額縁の中で喋る。男が、お父さんと親指小僧になって話す。豚と飼育係の弁証法。豚を殺せば飼育係は解放される。作り話を繰り返す、親指小僧とお父さん。登場人物が役割をころころ変えて見せて遊びをする。

今夜は死者自慢はしませんと女が言う、パンの中に隠された私のお伽噺は逃げてしまった、とパンを食べ続ける女。

中年になった少年探偵団の小林少年が喋る。私は無限に鍵を開けて行く。明智小五郎は嘘つきだった。怪人二十面相に会って、20の扉を開けたいなと踊って去る。額縁の男が読書する男の謎を語る。山椒大夫の話も出てくる。想像力が権力を奪うのだ。

怪人二十面相の正体は蛍だ。舌切り雀、お宿はどこだと紳士は歌う。家族合わせをする喪服の女と男女。お前の正体は何になったんだ?と男を問い詰める。今度は何になるんだい?。人力飛行機を妄想する兄。お父さんはあの男娼に殺されたんだ…。

人は何にでも化けることができる。ことばだ。ことばは冬を夏に変えることができる。全ての俳優は亡命者に過ぎない。化けて化けて化けまくればいい。そして私たちはまた成れる。多羅尾伴内、小林少年、謎の下宿人、即興詩人、時計の中のマドンナ。百鬼夜行だ!宮澤賢治にも成れる。あなたたちは成れる。新しい希望に。―完。

想像力と表現の可能性は絶望の時代の灯だ、と現代のテラヤマのイタコ、こしばきこうが時代に訴える。また新しいテラヤマの声を聞いた気がする。

虚言癖私の嘘が墓になる飛べるだけ飛ぶ夢の飛行機
 
 
YouTubeで公開/2020年9月1日鑑賞

text by 山口拓夢(ゲスト投稿)

text by ゲスト投稿

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