「らしいよね」「何が?」 イレブンナイン『太陽系第三惑星異常なし』

 いろいろな意味で大いに裏切られた作品だった。
 まずはタイトル。あまりに壮大なタイトルとは裏腹に、どこかのオフィスでのちんまりした舞台設定だった(タイトルは劇団怪獣無法地帯的。笑)。25分ぐらい経過してそのオフィスが地球防衛軍(防衛隊だったかな)のオフィスであることが明かされる。
 しかもオープニングが、「2001年宇宙の旅」で用いられた「ツァラトゥストラはかく語りき」で始まる。『これは壮大なスペースファンタジーか』と思わせられる。しかし地球防衛軍のオフィスとはいえ、どこにでもいそうな洋服を着た登場人物たち。(笑)

 次に、2年8か月後に惑星が地球に衝突する危機に晒されながら、社員たちの日常の会話で進むストーリー。緊迫感は、ない。チラシでは次のように紹介されていた。
「そこは、とある宇宙関係の仕事をしていると思われるオフィス。そこで働くものたちは、はっきり言って『よく働かない』。みんな、脳天気に、恋に悩み、自分が人にどう見られているか悩み、下痢に悩んでいた…。そして世界では、彼らの預かり知らぬところで、とんでもない事態が起きていた…。そして、いたるところで、おかしなボタンのかけ違いが、勃発する!」

 このお芝居の妙は、言葉の意味をはき違えるところだ。いわゆる「こそあど」が引き起こす内容のすれ違い。「あれ、知っているか?」「ああ、あれね!」という指示語で会話が進む。ところがいった本人と話し相手でまったく違う内容を指している。しかし会話としては成立し、そこに面白さがある。
 先月、シアターZOOで別役実のお芝居を観たが、そこで展開される会話とシンクロするような印象を受けた。このお芝居は斎藤歩さんが20年近く前に書いた戯曲らしい。初めから終わりまですれ違う会話で構成される本作は、斎藤さんの実験だったのかもしれない。もちろん、「こそあど」の妙に着目し、それを物語にした斎藤さんはさすがである。

 ラストは、リーダー(お芝居には登場しない)が木星から連れてきたふたりの「お友達」が、水分を補給することで細胞分裂して増殖することが明かされ、『増殖するのか!』と思わせるところで終わる(増殖しない)。

 チラシには、コメディーであることが明記されているので、その動作やセリフに笑わされた場面が多かった。お芝居の中盤で、全員が登場して、真面目におかしなダンスのような動きをする場面も面白かった。

 しかし、ちょっと不満が残った。社員同士ですれ違った会話とその内容が、どれひとつ完結していなかったからだ。最初の15分ぐらいは、観ていて『何をいっているのかこの人たちは』と、あたかも謎解きをするような面白さを持っていた。徐々に登場人物の関係性に気付き、『なるほどそうつながるのか』と納得できたが、どの関係性も解き明かされただけで、『その後どうなのよ』と突っ込みを入れたくなった。別のいい方をすれば、個々の関係性が分かったので、さてこれからどのように収束するのかと思わせるところで終演する。演出の意図としては『この後は自由に想像してください』ということなのかもしれないが、それでも、もう少しどこか落としどころを作って欲しかった。まさにサドンデス。

 出演は総勢10名。ELEVEN NINESからは、納谷真大、梅原たくと、菊池颯平、坂口紅羽、小島達子、上總真奈、内崎帆乃香、沢井星香。客演で大和田舞(劇団coyote)、常本亜実(札幌座)。いずれも安定したセリフ回しで、この点では満足できた。いや安定してたからこそ、壊れそうなお芝居が壊れなかったといえる。
 
 
2020年11月7日 14時
上演時間:1時間12分
サンピアザ劇場
イレブンナイン『太陽系第三惑星異常なし』(脚本:斎藤歩・脚色・演出:納谷真大)

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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