あまりに、あまりに現実的な 弦巻楽団『インヴィジブル・タッチ』

 新型コロナウイルス感染症が拡大している北海道。ウイルスに恐れて生きることの窮屈さ。それが人間関係にも大きく影響する。
 このお芝居は、そんな日常を描いたお芝居で、2020年8月と10月の2時点における、とあるマンションの会議での、住民代表のやりとりで構成されている。
 2020年8月、ラポール1号館管理組合の集会室に集まった住民代表3人。鳩羽かすみ(30歳、専業主婦、7歳の子どもあり)、麻木若菜(32歳、大手アパレルブランド勤務)、空五倍子(うつぶし)利休(50歳、独身、母の介護を行っている)。集会室には、模造紙に書かれた「コロナに負けるな」の文字。ここでは鳩羽かすみが「マンション住人全員でCOCOAを入れるべき」と主張する。いうまでもなく新型コロナウイルス接触確認アプリである。それぞれに意見を出し合いながら、結局「入れることを推奨するが強制はしない」ということで落ち着く。
 2020年10月、再び3人が集会室に集まる。マンションの住人が感染したという噂が流れるも、それが間違いであったことが分かる。その一方で、会話の途中で、空五倍子の母親がデイサービスで感染したことも明るみになる。8月に、せめて3人だけでもCOCOAを入れようと話がまとまったのに、結局麻木がインストールしていないことも分かる。お互いがお互いの気持ちを分かりつつも釈然としない思いを秘めている。行き詰まりの中で、最後にかすみはいう、「これ以上、負けたくないから。」

 現在の状況においてあまりにもありがちな設定なので、前半はやや持て余し気味で観劇していた。後半も、あるある話で、『そうなるよな』と思う展開だった。ただ、最後の言葉「これ以上、負けたくないから。」を聞いて、お芝居がぐっと引き締まった感じを受けた。「コロナに負けるな」ではなく「すでに負けている」という前提でのお芝居だったから。諦めを含みつつも、これ以上負けないという意識。この意識をどう行動に移せばいいのか。そんなことを考えながら帰路についた。

 出演は、鳩羽かすみ役に袖山このみ(劇団words of hearts)、麻木若菜役に岩杉夏(ディリバリー・ダイバーズ)、空五倍子利休役に温水元(満天飯店)。3人ともうまかった。緊迫したやりとりの場面では、お芝居に引き込まれた。

 このお芝居は北大のCoSTEPとのコラボで、少し調べてみると、CoSTEPは北大の高等教育推進機構オープンエデュケーションセンターに設置されている部門らしい。この部門の種村剛先生が獲得した科研費の支援を受けて上演されたお芝居だった。

 それにしても意味深なタイトルですねえ、Invisible handならぬInvisible touch。見えざる手で触られるなんてコワい。
 
 
弦巻楽団『インヴィジブル・タッチ』(脚本・演出:弦巻啓太)
サンピアザ劇場
2020年11月21日 19時30分
上演時間:67分

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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