ガガゾゾボンバーふたたび 座・れら第16回公演『空の村号』

 舞台は福島の山間部の村。時は2011年3月。こう書けばお芝居の設定がいかなるものかはすぐに想像できる。
 酪農家の長男、楠木空と妹の海。空は勉強ができるわけでもないし、とくに大きな夢を持っているわけではない。しかし空は「お金持ちになりたい」という願望がある。テレビに出演した映画監督を見て、映画監督は人にあれこれ指図するだけでいいし、お金ももらえると考えた空は、映画監督になろうと考える。
 しかし、そんな普通の少年が住む村を巨大地震が襲い、それを原因とする原発事故が発生する。一度は、原発から40キロも離れているので大丈夫といわれていた村に、突然避難指示が出る。原発事故に身の振り方を考えるお父ちゃん、お母ちゃん、さらに叔父の泰造。またいつも遊んでいた友達の翔太や剛たち。

 東京の親戚のところに身を寄せることになった空は、友達の翔太や剛、妹の海たちと、本当のことがひとつもない空想映画を撮ることにした。そのタイトルは「宇宙海賊船空号」。もちろんハンディビデオを使っての映画(もどき)である。空が作ったストーリーは、ガガゾゾボンバーという地球を放射能で滅亡させようとする「悪者」が登場する。それを阻止するため空たちは、宇宙海賊船空号に乗ってセーラ姫が住む星に向かい放射能除去装置を受け取りに行く。
 空と妹、友達がお芝居(劇中劇)を演じていて、あることに気付く。現実には「ガガゾゾボンバーなんてどこにもいない」。空想には必ず悪者が登場し、正義の味方が悪者を退治するのに、原発事故では悪者の姿は見えない。

 題材が題材だけに、やるせない思いが終始つきまとう。地震は天災だが原発事故は人災である。しかし人災とはいっても誰が悪いのかは分からない。そんな中で人々が翻弄される姿がストレートに描かれていた。

 このお芝居には登場人物は多いが、実際の役者さんは町田誠也(劇団words of hearts)、小沼なつき、工藤康司、鈴山あおい(Studio MAZUL)、山木眞綾の5人である(その他にピアニストYukii)。5人のうち、空役の町田、ドキュメンタリー映画監督役の山木以外は、ひとりで二役、三役を演じていた(映画監督役は竹江維子とのダブルキャスト)。
 小学5年生を演じた町田さん。40後半か50代かと思うが、一度話し始めると小学生に見えたから不思議だった。前回の信山さんはやんちゃな坊主に見えたが、町田さんは純朴な田舎の少年然としていた。うまかったなあ。
 全員が同じ衣装を着てのお芝居だったが、二役、三役を演じた皆さんの衣装がそれぞれの場面に合った衣装を着ているように見えた。椅子を3つ並べただけのシンプルな作りの舞台も、場椅子を動かすことで、そこに何かあるように見えるのだから、お芝居とは、げに面白い。

 このお芝居は、2015年11月に観ているので、今回が2回目であった。だが今回も素直には感情移入できなかった。会場からはすすり泣く声も聞こえてきたが、小生は泣けなかった。帰宅途中でなぜなのかを考えてみた。しかしいまだに分からない。はっきりしていることは、いまだその現実の恐ろしさを身をもって受け止めることができない絵空事にしか思えないという感覚を覚えたことである(この感覚は前回も一緒だった)。
 ただ、前回と違うのは、10年経ってもあの日の出来事は風化していないことを実感したことである。事実、たまたま偶然だったが、観劇した前日夜、福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生した。聞けば、東日本大震災の余震だという。決して忘れてはいないが、もうすぐ10年になるという今、東日本大震災の余震であの日の記憶を呼び覚まされたことは、紛れもない現実なのである。
 そんな節目のときに、このお芝居をかけた座・れらの慧眼に敬服する。
 この時期に10公演を行ったことに驚愕しつつ、拍手を送りたい。
 
 
座・れら第16回公演『空の村号』(作:篠原久美子 演出:戸塚直人)
札幌市こどもの劇場やまびこ座
2021年2月14日15時
上演時間:1時間30分

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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