お芝居ごっこに迷い込む目眩 風蝕異人街『四重奏―カルテット』

風蝕異人街のエンタメパロディ劇「カルテット」を観てきた。

登場人物は、川口巧海さんと男装の三木美智代さんがヴァルモン子爵(色男)。
三木美智代さんがメルトイユ公爵夫人(起伏の激しい婦人)。
13日は柴田詠子さん、12日はヨシダミホさんがセシル・ヴォランジュ(敬虔な乙女)。
高城麻衣子さんと女装の川口巧海さんがツールヴェル夫人。

18世紀フランスのラクロの書簡小説「危険な関係」が原案、ハイナー・ミュラーの「カルテット」が原作で、台本が谷川道子氏。演出こしばきこう。
舞台で青い服を着た四人が、「ごっこ、ごっこ、ごっこのごっこ!」と繰り返し言う。
私は誰?ここはどこ?どこへいくの?という問いが底流に流れている。自分探しと実存の不安。
メルトイユが紫の衣装でヴァルモンに話しかける。この二人が基本の登場人物。恋愛遊戯的な語り。
私が恋しているのはツールヴェル夫人だ、とヴァルモンは言う。
メルトイユは私の姪セシルに興味を持つならわかるけど、と返答する。

柴田さん(13日)と高城さんは青い服のまま、舞い叫ぶ。欲望のことば遊び。
二人は一種哲学的なごっこ遊びに徹する。
川口巧海さんがツールヴェル伯爵夫人として日傘を持って女装して現れる。
高城麻衣子さんもツールヴェル伯爵夫人として一緒に登場する。(二人一役)。
三木美智代さんが男装してヴァルモンを演じる。
ヴァルモンはセシルを避けるために、ツールヴェル夫人と恋をしたいと言う。

ヴァルモンとセシルの場面となる。信仰に生きる、貞淑なセシルと色男ヴァルモンの戯れ。ヴァルモンを誘惑しつつ近寄るセシル。
セシル・ヴォランジュは果たして堕とされたのか。セシルは妖精パックかオフィーリアか。
再びヴァルモンとメルトイユの会話でツールヴェル夫人は堕ちたと言われる。

終盤、青い衣装で四人が現れ、口を布で覆い、花のように倒れる。
口々に問いかける。神はどこにいる?立ち尽くす今日!私は誰、私たちは誰?
ここはどこ?どこから来たの?どこへ行くの?男は女!女は男!ごっこのごっこ。ごっこの死!
バロウズのような声のナレーションが聞こえて終演。

ヴァルモンとメルトイユ夫人の科白は、割とハイナー・ミュラーの原作に忠実。
青い服を着たセシルとツールヴェル夫人は、二人の影として、芝居のごっこ性を茶化す役を担っている。
確かに難解なエンタメパロディだが、真摯な遊びと力強い科白と躍動感のあるダンスで、
一時間、眼が釘づけだった。楽しいコンテンポラリー演劇体験。痛快!

入れ替わる四人の影に迷い込み自分が誰か判らなくなる。
 
 
2021年3月13日公演 会場コンカリーニョ
投稿者:山口拓夢

text by ゲスト投稿

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