他の芸術ではどうなるか?  演劇家族スイートホーム『滑走路は待っている』

作:髙橋正子 演出:演劇家族スイートホーム 出演:五島基愉

一人芝居の企画、LONELY ACTOR PROJECT VOL.32で上演された。                                                        航空整備士になるため学んでいた人が、コロナ禍により航空会社ではなく自動車会社に勤めることになる物語。

航空整備士を目指した学生の視点から、コロナ禍の苦しみを描く発想に驚いた。驚いた、というと髙橋さんの力量を疑っていたようで失礼かもしれないし、航空業界にも失礼かもしれない。けれどボクの貧しい発想力では「よく演劇にしたな」というのが正直な感想。そして面白い作品に仕上げていたと思う。

演じた五島さんは子供と学生を演じ分け、序盤に演じた子供としてのセリフと、終盤の学生としてのセリフが会話となる構成。最後、ボクは子供のセリフを懸命に思い出しながら、脳みそフル回転で会話を成立させようと頑張った。

千穐楽の終演後、髙橋さんは自身のツイッターで航空業界のニュースをリツイートした。そこには、ANAの出向およそ750人、日本航空の出向およそ1400人とあり、「あらすじ」にあった2150人という数字はその合計ということが分かった。

公演情報にあった<あらすじ>                                                                        およそ2150人、                                                                                   もっといるかもしれない、                                                                                       終わりが近づいては遠ざかっていきながら、                                                                            今もフェンスの向こう側で働いている。                                                                        全員が何を思っているか、わからない                                                                                全員が戻りたいか、わからない                                                                                  それでも滑走路は待っている。

子供がフェンスの外から飛行機の写真を撮っているものだから、子供から見て「フェンスの向こう側」と思っていたが、働いているのは出向により「フェンスの向こう側」にいる人たちだったのだ。演劇作品は事前の情報が映画に比べ少なく不満に思うのだが、今作ではあらすじと上演、そしてツイッターによる情報の補完がうまく連動し作品の完成度を高めているように思えた.それにしても、ここまで簡潔に航空業界におけるコロナ禍の悲しみ、やるせなさを表現できる芸術が演劇の他にあるだろうか?文学では盛り上げにくいだろうし、短編映画でもリアリティーを出すのはロケや小道具などの問題で難しいような気がする。また、コロナが収束したあとに再演されてもピンとこないだろうとも思う(短編でも映画は残すことが前提だと思うので制作しようとも思わないのでは?と失礼ながら思ってしまう)。

コロナ禍をモチーフに、教訓を交え収束後も鑑賞できる芸術作品を創ることはできるだろう。けれど、この『滑走路は待っている』は今だからこそ意味のある上演であり、そこには演劇だからこその儚さと、対立を煽るのではなく悲しみを唯々つつみ込む優しさがあった。

一人芝居であっても確かに劇団としての存在感を示した演劇家族スイートホーム。流石ですね、と伝えたい。

 

2021年4月23日(金)19:00

演劇専用小劇場BLOCHにて観劇

text by S・T

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