青春、炸裂 網走南ケ丘高校『口咲け女』

和洋を問わずホラー映画が好きだ。遠い昔の話だが、テレビで放送されるホラー映画では物足りなくなっていた私と友人は、中学校の入学式の後に真新しい生徒手帳を持ってレンタルビデオ店に直行し、会員になった。その後3年間、2人でその店のホラー映画全部を観た(物足りなくなってSF映画にも手を出した)。そんなジェイソンやらチャッキーやらに熱狂していた当時、「口裂け女」はノーマークだった。ウィキペディアで調べると、「口裂け女」のうわさが流行したのは1979年ごろで、2000年以降に映画化されているようだ。…とここまで書いておいてなんだが、本作は「口咲け女」であり、都市伝説でもホラーでもなく、青春が炸裂している作品だ。

管内の高校の生徒会執行部が「リーダーシップ研修」で集められる。研修をまとめている教員の意向で、同じ部屋になった者同士で演劇をつくり、発表することになった女子4人(メガネ女子・マスク女子・片思い女子・マンガ女子、と名付ける)。「口裂け女」をテーマにしたエチュードを始める中、マスク女子が「マスクを着け始めた理由」が明らかになっていく-というのがだいたいのあらすじ。本作は昨年の全道大会参加作品だ。

物語の中心になる4人は、同じ高校だったり、別の高校でも同じ中学出身だったりという関係。だから、序盤の人間関係にはぎこちなさと馴れ馴れしさが混じり合う。パッと目を引いたのはマンガ女子。どこか「ちびまる子ちゃん」の野口さんのようなブラックさを醸し出し、エチュードの場面では一転、熱い演劇バカになる。あの振れ幅の大きさはとても魅力的だ。また、「口裂け女は100メートルを3秒で走る」というネタがエチュードの中で華麗に回収され、「ああ、ここで!」と唸ったのは私だけではないはず。マスク女子のマスクの理由は、好きな男子に「笑い顔が変」と言われたのがきっかけだが、それを聞いたメガネ女子と片思い女子が呆れていたことから、その男子はからかって言ったのだと予想する。それを真に受けてしまうなんて!青春炸裂じゃないの!と独りごちた。どこかの新聞では「主人公はマスク女子」と書いてあったけれど、むしろマンガ女子を除く3人が自分や他者と向き合うことから、一歩踏み出しそうであり、意外とそうでもないかもしれない-といういい意味で答えを提示しない物語だと感じた。本作では描かれないが、マスク女子に「笑い顔が変」と言った男子(生徒会で研修に来ている)は、自分の言葉の重さに全く気付かず「え?そんなこと言ったっけ?」と軽く言っちゃうんだろうなぁ…(ああ、男子って…)。

最近、「能」や能を題材にした舞台をチェックしていたこともあり、照明が付いた時、「あ、これは能舞台だ」と一目でわかった。4人が過ごす部屋が「本舞台」で、ドアまでの廊下が「橋掛かり」。それが何を意味するのかと楽しみにしていたが、「能」が出てきたのは、マスク女子が演じる「口裂け女が口裂け女になるまで」の一場面のみだった。マスク女子は他3人と比べると口数が少ないため、何を考えているか・妄想しているかをいちいち「能」で見せても面白かったかもしれない。

ホラー映画が好きな私がワクワクしたポイントの一つが、エチュードで繰り広げる「口裂け女VSトイレの花子さん」。「貞子VS伽耶子」しかり、「エイリアンVSプレデター」(人間を助ける点ではこっちの方が近いか)などを思い出した。目の前にその像がなかったとしても、時空を自由に歪ませることができるのは、これまた演劇の面白さだよなぁとあらためて思ったのである。

 

6月10日、自宅で映像観劇

text by マサコさん

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