混ざり合う物語だ。
劇中、化学者であるカロザースがふたつの薬品を混ぜる。舞台は静寂に包まれ、客席もぐーっと引きこまれる。カロザースがビーカーの中をかき混ぜていくと、合成された繊維がみるみる生みだされていく。
彼の夢、追い求めていたものがついに叶った。そのとき、観客は歴史を体感する。
彼が作った世界初の合成繊維、ナイロン66は世界を変えた。劇団words of hearts『ニュートンの触媒』はナイロン66を作りだした薬品のように、混ざり合う舞台だ。
カロザースはときおりもうひとりの自分と会話する。自分のうちなる声とカロザースの声、ふたつは舞台で混ざり合う。
また、彼はニュートンを敬愛している。しすぎるあまり、ニュートンに自身を重ね、混ざり合おうとする。
カロザースは偏狭な性格で、自宅に研究室をかまえ会社には行かず、ほかの研究者と混ざろうとしない。それが物語後半で彼の人生を変えてしまう。そんな彼と心を通わすのが使用人の日系人……アメリカに混ざっている日本人だ。
そしてこの劇自体が、ナイロン66を作るまでの明るい前半と、それ以降の苦悩する後半が混ざり合うことで、カロザースという人間の光と影を描き出す。
欲を言えばもっとストーリーの展開があってもよかった。史実をもとにしているので架空の出来事をどのくらい入れるかは悩みどころだが、けっきょくどんなに忠実に描いたところでフィクションだ。
だとしたらもっとこの世界を創造して、新たなるストーリーを生みだし、この舞台ならではの飛躍があってもよかったのではと思う。
精緻な、一枚一枚しっかり敷き詰められた作品であることは間違いない。そこに気概も感じた。だからこそ、そのひとつひとつが混ざり合い、新しいなにかが生みだされる余地もあるように思えた。
創作は難しい。カロザースが合成繊維の創作に苦悩する様は心を打つ。研究者だけでなく演劇や物語づくりにたずさわる人も共感するだろう。いや、あらゆる仕事、あらゆる人生にも共通しているのかもしれない。そういった意味でこの物語は普遍的なんだ。
公演場所:コンカリーニョ
公演期間:2021年7月24日~7月31日
初出:札幌演劇シーズン2021夏「ゲキカン!」
text by 島崎町