すっきり割り切れる舞台だ。
出てきた人たちみんなハッピー、モヤモヤ・ズルズル引きずらない、夢と希望にあふれた気持ちいいほどのエンディング。割り算で、余りなく、完璧に割り切れたような爽快感がある。
もえぎ色『BIG Singer Glorious』。かつて歌手を目指していた女性3人組は田舎の町でそれぞれくすぶっているが、2人の子持ちであるドリーは夢をあきらめきれない。町のホール解体と、そこで行われる最後のコンテストを目標に3人はふたたび動きだすが、これまでのブランク、家族の反対、ライバルの出現など、困難が待ち受けていた……。
僕は割り切れない物語やあと腐れのある作品なんかも好きなんだけども、ここまで全力で、なんの迷いもなくハッピーな物語をやられてしまうと、もう参りましたと言うしかない。
今期演劇シーズンの、ひとつ前の公演、ELEVEN NINES『プラセボ/アレルギー』とくらべると、もうまったく、あと味が全然違うね。
『プラセボ~』はいつまでもあとを引くようなモヤモヤ感が最高だったけど、こっちは竹を割ったような、とんでもなく気持ちのいい解放感。おなじ時期、おなじ札幌で公演されたふたつ舞台を観て、物語の多様性や札幌演劇界の幅広さを感じた。
全員しあわせ、それでいいじゃない、というメッセージ。とことん明るく、楽しくしてやろうという信念。新型コロナで閉塞しているいま、いろんなモヤモヤを吹っ飛ばしてくれる、演劇シーズンラストにふさわしい公演だ。
シンプルでわかりやすく、曇りのないストーリー。土日限定の生バンドの音圧・迫力、歌、踊り、照明、舞台装置、もろもろよかったが、いちばん言っておきたいのは魅力的なキャラクター。
特に! 敵役・ライバルが魅力的な物語は面白くなると言われているけど本作もまさにそう。都会から田舎のコンテストへ乗りこんでくる男女ペア「レディ&ゴウ」。かつて主人公たちといっしょに歌っていたが、いまは自分のグループを結成し都会進出を目指すアンナとそのグループ「アンナ・ア・リトル」。
この二勢力との衝突が中盤のメインの進行になるのだけど、どちらのグループも個性的かつ魅力的なのでダレない、どんどん引きこまれる。個人的に「レディ&ゴウ」はスピンオフ作ってほしいくらい。昼は苦手なバイトで苦労しつつも、週末は地方のコンテスト荒らしに精を出すふたりの活躍とか、ふたりが出会ったきっかけの結成秘話でもいい。
ということで、とことん楽しい舞台が観たい! しあわせな気持ちになりたい! という人にオススメ。元気が出ます。
公演場所:かでる2・7
公演期間:2021年8月14日~8月21日
初出:札幌演劇シーズン2021夏「ゲキカン!」
text by 島崎町