作・演出 髙橋正子さん。
とある地方の町、学生時代からの友人たちが成人し昔のままではいられなくなる物語。
学生から社会人になることで環境的に大変だとは思うが乗り越えて欲しい。無理はしてほしくないけれど・・・。こんな心配も杞憂に終わればいいな、と願う。
2019年に上演された『わだちを踏むように』の時にボクが書いた感想の一部であるが、願い通り心配は杞憂であった。もちろん苦難困難はあっただろうけれど今作も素晴らしい出来だったと思う。脚本・演出・演技の相乗効果と言ったらいいのか髙橋さんの無茶ぶりに役者陣が見事に応える。プロデューサーシステムではこうはいかない、劇団ならではの強みだろう。特に竹道さんは七変化のように役をこなし一つ一つの質が高く、好意を寄せる男性に彼女ができたと分かったときの演技の切れ味は素晴らしかった(その分モテまくりの本庄さんにはイラっとした)。
ガチャガチャうるさく陽気な序盤から容赦なく地獄に突き落とされる感じ。何気ない人間の醜い部分を注視できる髙橋さん。誰もが持っているであろう他人の不幸は蜜の味的な部分を上手く描いていた(他人の不幸が福音であるかのような表現はすごかった)。かといってそれらの人物に反省させるような蛇足な場面は無い。ただ一番冷めた目で皆を見ていたと思える人物に「どうすれば良かったんだろうな」と過去の選択を考えさせ、酔っぱらって女性にケガをさせた過去を悔いていた人物にビールを飲ませる、心の傷を乗り越えようとするかのように。そしてそれを見つめ、視線を外していく同じ女性を好きになった人物の何とも言えない表情のラスト。パンフレットによるとスイートホームの「スイート」の部分を描きたかったとう髙橋さん。いたたまれなくなる物語の展開に「どこがスイート?」と思ったが恋愛を扱うこと自体が髙橋さんにとっては「スイート」だったのかもしれない(褒めてる)。
今回湯本さんの演技を観られなかったのは残念だったが次の機会を待つとする。あくまで無理はせずに。そういえばメンバーのツイートで、演劇活動の期間を決めているかのようなツイートを見たことがある。〇歳まで、もしくはあと〇年といったような。これはボクの勘違いかもしれないし(ツイートをたどったけど見当たらなかった、見間違い?)、そうだとしてもそれぞれの人生計画があることだから仕方がないことでもある。キモイとかキショイとか(観た人は分かる)言われないように静かに見守ることにしよう。
2021年9月19日(日)11:00・15:00
扇谷記念スタジオ・シアターZOOにて観劇
text by S・T