魔界の糸が操る悲劇-風蝕異人街の『マクベス』を観る

 風蝕異人街のシェイクスピアの『マクベス』を観てきた。頭に花を飾った、水色の衣装の魔女三人(高城麻衣子さん、柴田詠子さん、櫛引ちかさん)が、短剣を前に話し合う。続いて、男たちの集結。ダンカン王(今井力也氏)が、戦争中、戦況を家来に訊く。皆、革ジャンか革コートを着ている。
 一方、バンクォー(斉藤秀規氏)と友人マクベス(川口巧海氏)は、魔女たちと出会う。魔女たちは言う。「万歳、マクベス。コーダーの領主、いずれは王になるお方。バンクォーの子孫は王になる。」これを聞いて、自分でも気づかなかった王になる野望に気づき、怖気づくマクベス。彼はほんとうに、予言通りコーダーの領主になった。三人の妖しく陽気な魔女は、闇の世界の案内役で、登場人物の運命の糸を操っている。
 マクベスは考える。ダンカン王を殺せば、自分が王になるだろう。三人の魔女たちは、喪服に着替えて、舞台奥でうごめく。
 マクベス夫人(三木美智代さん)が手紙で経緯を知る。マクベスは王殺しをためらうが、マクベス夫人が先導する。
 マクベスの館に訪れて寝ているダンカン王を、マクベスが何度も刺して殺す。のたうち回って踊るように死んでゆくダンカン王。マクベスは後悔するが、夫人が励ます。
 殺人が王家の者にみつかる。ダンカン王の王子マルカム(千葉洋平氏)は身を隠す。予言通り、友人の血筋に王位を奪われないように、友人バンクォーに刺客を送って殺す。宴で王座にバンクォーの亡霊が見える。王の家来マクダフ(宮ノ森しゅん氏)も王殺しの犯人がマクベスだと疑い、身の危険を感じて逃げている。マクベスはまた魔女たちに予言を聞きに行く。魔女たちは「人の大敵は、自信過剰」と言って消える。ここで休憩。
 秘薬の煮物を作る魔女三人。マクベスがそこに予言を訊きに来る。女から生まれた者は誰一人お前を倒せない、バーナムの森が襲ってこない限りマクベスは死なないと予言して魔女たちは消える。マクダフ夫人と子どもはマクベスに暗殺
される。
 一方、マクベス夫人は眠りながら血塗られた手を洗い、過去の悪行を反復して取り乱す。自信に満ちた前半の堂々たる悪女ぶりと、後半の精神崩壊のギャップを三木美智代さんは迫真で演じ切る。マルカム王子とマクダフが木の枝を手に持ってマクベスの城を攻める。バーナムの森が攻めてきた!
 マクベスとマクダフの対決で、母から生まれたのではなく帝王切開で自分で出て来たマクダフは、結界を破ってマクベスを倒す。三人の魔女がマクベスの屍を囲んで、呪文のねじは巻き切った、と告げて完。
 前の王を殺した人物が、木の枝を持った者に殺される、という『金枝』篇の王殺しのような筋立て、グリーンマン伝説を思わせる森の進軍、無意識の闇の魔界の扉をひらく魔女たちの妖しさ、精神崩壊へ至るマクベスと夫人。見どころは尽きないが、身体活劇と謳ったスピーディな演出で、2時間弱を一気に味わった。「人間の心の闇を魔女は言うひどいは善くて善いは手ひどい」

2021年11月6日公演 会場 琴似コンカリーニョ
投稿者:山口拓夢

text by ゲスト投稿

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