愛のぬけがら パインソー『ワタシの好きなぼうりょく』

愛のぬけがら。

かつて愛だったもの、それが風化し朽ちていく。抜け出した中身はさまよい歩く。愛が終わった人はどこへ向かうのか。

パインソー『ワタシの好きなぼうりょく』は、複数の物語が並行し、ゆるやかに絡み合う構成。

独立した物語の円がいくつも散らばり、ところどころ重なり合う。よく見るとすべての円が重なり合う部分があって、それが「愛」しかも「終わってしまった愛」だ。

ほとんどの登場人物が、愛が終わり、愛への余韻は冷め切っていて、余熱はまったく残っていない。電子レンジを開けたら昨日温めたまま忘れていた料理が残されていたときの空しさのような。

かつてそれに情熱を傾け欲していたはずなのに、いまはそこにひとかけらの熱も残っていない。もちろん食べる気はおきないし、かといって捨てればいいのだろうけど、なにか空虚な未練だけが残りつづけている。

そう、この舞台の登場人物たちは、愛が終わり、愛をなくし、もう愛には興味がない……はずなのに愛のまわりをさまよいつづける。それは物語構造だけでなく舞台にそびえ立つ巨大な塔、愛のシンボルのまわりを実際にぐるぐるさまよいつづける。

絡み合うような絡み合わないような物語。散逸的で乾いた下ネタ。舞台背景のほぼ半分を使って映し出される舞台上の(やや遅れた)映像。いくつもの要素が拡散され、いつまでもぐるぐると円を描きながらさまよう。観客はいつかどこかに収斂してくれることを願う。行き着く先はどこなのか、最後になにが見えるのか。

クセのある役者たちがひねりのきいたストーリーを熱した舞台で表現する、というのを期待すると肩すかしを食らうだろう。スピード感はあるけど全体として冷めた気だるさが漂い不気味さすら感じる。

ああ面白かったな、では簡単にすまされない、消化不良を起こし心の中にとどまりつづけるやっかいな作品だ。

 

公演場所:札幌市教育文化会館 小ホール

公演期間:2022年2月1日~2月6日

初出:札幌演劇シーズン2022冬「ゲキカン!」

text by 島崎町

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