マリア像は見ていた   劇団でゅなみす 『オリオンをさがして』

「PROJECT WALTZ VOL.5~栄光の3人芝居フェス」参加作品
作 髙島葵さん。
藤女子大学16条キャンパスで活動する劇団で、ボクがこの劇団を観るのは初めて。
廃部になった演劇部を復活させようと、新入生がタイムトラベルをして廃部を回避しようとする物語。

3人がマンガでよくあるお嬢様学園風で、上品に学園七不思議を話題にするところから物語は始まる。夜に中庭のマリア像が虹色に発光しながら高速回転をするという。そのマリア像を見た者は・・・、との振りからのオープニング映像。見た者がどうなるかは分からないまま物語は進んでいく。

新入生の二人組、片割れがせっかく大学生になったのに入りたかった演劇部「オリオン」が無いことを嘆く。10年も前に廃部になったらしいので「知らなかったのか?」とツッコミを入れたくなったが「どうぞツッコんでくれ!」という雰囲気が作品の各所に感じられ、それほど気にはならない。役者陣がおおらかな感じのせいかもしれない。そんな二人は廃部を回避するため、原因となった「芝居で実際に髪を切り、その髪を実際に食べる」という気色の悪い演出を止めようとタイムマシンで過去に行く。タイムマシンは映画『江ノ島プリズム』のように腕時計型。どこだかの信用できるオジサンから貰ったらしい。10年前の先輩と演劇論を交わし問題を排除する。これで大丈夫と現在に帰ってきたが、新たな問題が発生したようで「オリオン」は存在していない。結果、合計三回過去に行くこととなる。

3回目はマスク一つでコロナ禍を表現。公演中止で衣装を片付ける先輩部員の姿が痛々しい。コロナ禍の中、無理に公演を行えば演劇部の評判を落としてしまう。いつか演劇部が胸をはって活動を再開できるように先輩部員は公演を中止したのだった。結局は活動再開できず、未来から後輩がタイムトラベルまでして来たのだけれど。

気落ちする先輩を励ます後輩。将来の再会を約束し(タイムマシンの機能により先輩から後輩の記憶は消えてしまうが)後輩は現在に戻る。一人になった先輩部員はその夜、例の高速回転するマリア像を目撃する。BGMはなぜかイエロー・マジック・オーケストラ。ボクが小学生の時に流行った「ライディーン」だ。音楽に合わせ軽やかに回転するマリア像。それを見た先輩部員は頭が痛いと気を失う・・・。

現在に場面が変わると先輩と後輩で上演直前。無事活動は再開されたのだ。客入れの曲はバンドじゃないもん!の「ショコラ・ラブ」のよう。知らない曲だから「メガネ持って、メガネ持って」と歌っていると思って検索すると「メガネ萌え」だった。

後輩が客入れの曲は何でこれなのか?との問いに「前の前の前の年から(だったかな?)・・・好きな曲に変えても良いよ、ライディーンとか」と返す先輩。けれど後輩はこの曲が良いと言う。さあ上演だと終わるのだが、この結果を見ると高速回転するマリア像を見た者は「願い事が叶う」ということのようだ。「だったら最初から回ってやれよ!」という声が聞こえてきそうだが、それには後輩と先輩の純粋な思いが必要だったのだろう。後輩だけでもダメ、先輩だけでもダメなのだ。双方の思いが因となりマリア像との縁ができて未来が変わったのだった。

実際、劇団でゅなみすは公演の中止をコロナ禍で経験しているようだ。もちろん多くの劇団が同じ経験をしているのは承知だが、『オリオンをさがして』は体験したその悲しみや悔しさを作品として見事に昇華したものだと思う。あの片付けられた衣装は使われることのなかった実際のものかな?なんて想像させるのも面白かったし、客入れの曲の選曲理由とか本人たちにしか分からない仕掛けがあるんだろうな、とも思った。

今作からは先輩・同期・後輩・これから来る人たちへの思いを感じることができた。その思いは外部の人間に伝わることは無い。けれどマリア像は見ている。確かにマリア様は観ている。そう思えたのだった。

 

2022年2月6日(日)15:00

演劇専用小劇場BLOCHにて観劇

text by S・T

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