悲劇による現状変更は望まない 劇団怪獣無法地帯『閃光のチェック、嘆きのドット』

作・演出 新井田琴江さん。

死んでしまった親友を助けるためにタイムリープを繰り返し、時には自分が死んでしまっても生き返り、未来を変えようと奔走する男(脇役)の物語。

「ロミオとジュリエット」「真夏の夜の夢」「ウエストサイドストーリー」から着想を得たという今作だが、始ってみれば人権の根拠が着ている服の柄(チェックorドット)にあるというような展開。観客にはチェックかドット柄の服・小物を提示することでチケット代を500円割り引いてくれる嬉しい企画もあった。ボクはチェック柄の服は持っていないのでドット柄のネクタイをして行った。ちなみにストライプ柄のネクタイをボクは持っていない。聞くところによると外国ではストライプの柄によって所属する団体を表し、あらぬ誤解を招くことがあるらしいからだ(外国の人と仕事をすることは無いけれど)。そういえばチェック柄にも民族的な意味もあるので「服なんて単なる記号だ!」と劇中で言われると、他意が無いのは分かるのだけどボクにはちょっと抵抗があった。それぞれの伝統文化は大事にしたい。ラストで「好き」「嫌い」を超える「凄い」デザインの衣装でまとめた感じはあったのだが。

とはいえ今作ではとても笑った。従来の新井田作品では勢いで笑いをとるところがあったのだが今作では練られた笑いがあった。まさにパンフレットにあった「悲劇を喜劇に、共に楽しいひとときを」と言う新井田さんの言葉通りの時間を過ごすことができた。けれど悲劇である「ロミオとジュリエット」に「真夏の夜の夢」の要素(劇中劇や媚薬)を入れて喜劇にしたのは何故か。そんな疑問がボクに浮かんだ。単純に楽しく皆が笑える作品を作りたかったのもしれないが、なかなか納得する答えを思いつけないでいた。

しかし根本から考えてみると、「ロミオとジュリエット」は愛し合う二人の死によって周囲の人たちが改心する物語である。つまり悲劇によって世の中が良くなる物語である。それを新井田さんは良しとしなかった、そういうことではないだろうか。悲劇ではなく喜劇によって、誰も死ぬこと無く皆の笑顔によって、世の中がより良く変わっても良いんじゃないか?そんな新井田さんの声が聞こえてくるようだ。

新井田さんが着想の時点では思いもよらなかったであろう「力による現状変更」が外国では進行中だ。まだ終わりの見えない悲劇から人間は何を学ぶのだろうか。今作は作者本人の意図を超えた、重みを持つ作品と言えるのかもしれない。

 

2022年5月29日(日)12:00

生活支援型文化施設コンカリーニョにて観劇

text by S・T

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