不揃いを描く 札幌座『烈々風 玉葱畝る 夏至白夜 沁みる挽歌に 咽ぶ匂ひよ 』

宇宙の玉葱の「種の起源」あるいは「主の思し召し」が妖しくが広がる舞台。
札幌東区、土中から顔を見せた札幌黄が何条にも畝っている。青く伸びた葉は天中に向かいやがて先端に珠のような花が咲く。如意宝珠。

札幌黄は北海道の玉葱の元祖のような在来種だ。小柄で巻きがしっかりしているがジューシー。加熱後の甘味は改良品種を寄せつけない。一方、病気に弱く品質の不安定さからすでに生産の主役の座にない。が、原種を守り抜いてきた生産農家により「幻の玉葱」として人気が再燃している。

夏至の夜、札幌黄の畑に不思議な人物が現れ集う。東区役所の地域振興課職員(梅原たくと)がPR動画の生配信を始める前から芝居は始まる。札幌黄の農家夫婦(泉陽二、磯貝圭子)のもとへふらりとやってきた姪っ子(常本亜美)は独りキャンパーだ。ぼっちと社会の切り結びに苦慮している背の高い女子。丸ごと玉葱ご飯を作る料理研究家(西田薫)。ご飯は実際に舞台で炊かれ客席は札幌黄の甘い匂いに包まれる。そして、宗教家で歌人の初老の男(納谷真大)と三度目の若い妻(熊木志保)。もうこれだけの揃いで、いや不揃いで妖しい雰囲気が立ち昇ってくる。

不揃いそれぞれに拠って話されることは種の起源であり、主の思し召しだ。怪しい宗教家で歌人は天地を取り持つ。歌は短歌であり、啄木の恋情溢れる詩歌の世界も現前する。土中の札幌黄と天空の星座が呼応する。役者は良く、不揃いの人間どもを描き出した。土中の札幌黄は不揃いの人間そのものではないか。

斎藤歩の新作(演出、音楽も)は土中と天空のはざまで不格好に営為をつなげる人間を描いて縦横無尽だった。斎藤の免疫力ますます向上を確信した。
 
 
札幌座第58回公演『烈々風 玉葱畝る 夏至白夜 沁みる挽歌に 咽ぶ匂ひよ ~烈々風挽歌~』
2022年6月12日(日)14:00 シアターZOO 

text by 有田英宗(ゲスト投稿)

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