座・れらさんの『アンネの日記』については、本作の過去や『私〜ミープ・ヒースの物語』も拝見していますが、それらの公演を経て、また、ミープ役でもある小沼さんが今回は演出に加わるということもあって興味を持って客席につきました。
本作は戯曲ですので、アンネの『日記』だけではなくプロローグ・エピローグがあるのですが、初演時は今回とは異なるものであったと記憶しています。(「戯曲・アンネの日記」は未読なので本来はどのような形なのかは知らないのですが)今回は「唯一の生き残り」であるアンネの父、オットー・フランクと、支援者であったミープの再会から舞台はスタート。エピローグは○○○○○○○○○○○○というものでした。(※公演中につき伏せておきます)
『アンネの日記』自体、今の若い方々は意外と馴染みのないものかもしれません。その意味では、今回のエピローグはわかりやすく、落とし所にも納得。
しかしながら、プロローグやエピローグやどのような形をとったとしても、(個人的な意見ですが)この「物語」はあの隠れ家のドアが乱暴に破られた瞬間に全てが終わる、と僕は受け取っています。こんな時勢ですが、『アンネの日記』は大上段に戦争を糾弾するものではなく、隠れ家の人々の人間模様とアンネの青春と、そしてそれが一瞬にして失われたことを、受け手一人ひとりが考えることに意味があると思うからです。
…すみません前置きが長くなりましたが(笑)。そんなわけで肝心の本編(隠れ家生活)でどこまで「魅せて」くれるか。それによってあの「最後の瞬間」をどこまで鮮烈に焼きつけるか、という事に興味がありました。
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本作はその性質上、登場人物の出ハケが少なく、(序盤こそはアンネがかき回してくれますが)場の空気感の変化を作るのがなかなか難しい作品だと感じます。しかしよく鍛えられたキャストは全員がはまり役という感じ。個人的には、これが完成形というには「最後の瞬間」にはまだ物足りなさもありましたが、それは初日ゆえの多少のぎこちなさだったかもしれません。長い共同生活(公演)の間に更に良いものになっていくのだろうという期待感が大きかったです。
初日で特筆したいのはオットー・フランク役の齋藤雅彰さん。隠れ家生活を引っ張り、アンネの敬愛する思慮深い父親を好演。なんか最近の雅彰さんには何となく頼りない役イメージが僕の中で定着しつつあったのですが(笑)、今更失礼ながら僕的には雅彰さんのベストアクトの一つかと。(そういえば実在のオットー・フランクにも風貌が似ているような気もします)。またこうした海外作品には欠かせないと僕が思っている町田さん(ファンダーン氏)との対比が更にオットーを際立たせます。
そしてアンネ役の鈴山あおいさん。あの時代独特の物言いや仕草など、制約の多い芝居を、台詞からしっかりと感情表現を組み立てて客席を巻き込んでくれます。さすが弦巻楽団で鍛えられているなあと頼もしく見ていました。
2022/7/30(土) 11:00 札幌市こどもの劇場やまびこ座にてプレビュー公演を観劇
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札幌演劇シーズン2022夏 座・れら第18回公演『アンネの日記』(2022/7/30〜8/7)
作:ハケット夫妻(菅原卓翻訳)
演出:小沼なつき・鈴木喜三夫
プロデュース・舞台監督:戸塚直人
【キャスト】
オットー・フランク(齋藤雅彰)
エーディト(西村知津子)
マルゴー(谷川夢乃)
アンネ(鈴山あおい)
ファンダーン氏(町田誠也)
ファンダーン夫人(原子千穂子)
ペーター(佐藤みきと)
歯科医デュッセルさん(前田透)
クラーレルさん(つくね)
ミープ(小沼なつき)
text by 九十八坊(orb)