何度でも観たいイレブンナイン版 ELEVEN NINES『12人の怒れる男』

イレブンナイン版のこのお芝居は2015年(コンカリーニョ)、2018年(かでるホール)に続いて3回目の観劇だった(イレブンナインとしては今回で4回目だそうだ)。

結論からいえば、何度でも観たいお芝居。だから今回も迷わず観劇した。
ストーリーも分かっているし、12人の陪審員のキャラクターもだいたい把握している。それでも、上演するとなれば必ず観たいと思わせるのが、このお芝居なのである。

ただ、原作がいいだけに役者さんの器量が芝居の出来不出来に大きく影響する。人一人の命がかかっているという設定なので、緊迫感、説得力のある芝居でないとクサイ芝居で終わるのは必定。その点、イレブンナイン版は安心して観ていられる。今回も12人の役者さんは、それぞれに個性を発揮していたし、それぞれにセリフや所作に緊迫感、説得力があった。

今回は、過去2回とは大幅に役者さんが入れ替わっていた。過去2回も、ダブルキャストという回はあったが、それとは違う入れ替えがあった。陪審員4番河野真也さん、8番の久保隆徳さん、9番山田マサルさん、12番明逸人さんは続投したが、過去に出演していた江田由紀浩さん、小林エレキさんというクセのある役者さんが出演していなかった。
そして何よりも驚いたのが平塚さんの代わりに納谷真大さんが3番を演じていたことだった。過去2回とも平塚さんが有罪主張派を牽引し、これがまたはまり役だと思っていたので、納谷さんの今回はいい意味でショックだった。印象がかなり変わった。逆に、初参加の山野久治さんが演じた6番は、過去には斎藤歩さん、納谷さんが演じていたが、山野さんのとぼけた演技は好感が持てた(個人的に好きな俳優でもあるので)。

最後の最後まで有罪を主張し続けるという3番納谷さんのぐいぐい引っ張る演技は、平塚さんとはひと味もふた味も違った面白さを見せつけてくれた。これはこれで悪くない。さらに、過去と印象が変わったのは、はじめの投票でただ一人無罪票を入れた8番久保さんの演技だった。過去2回は、自信を持って「簡単に有罪にはできない」と主張していたと思うが、今回ははじめから『もしかしたら有罪かもしれない』という思い詰めたような印象を受け、しかも、最後まで自信がないような、悩みが深いような演技をしていた。観ている途中で『有罪に票を入れるのではないの?』と不安になったほどだった。これも演出なんでしょうね、きっと。うまい。

陪審員が犯罪を立証するために検討したのは、少年は本当に父親をナイフで殺害したのか、階下の老人は本当に少年の声を聞いたのか、そして鉄道を挟んだアパートで本当に女性は少年が父親を殺害したところを見たのかという3点。今更ながらに気付いたが、このうちのふたつは、9番の老人が有罪とはいい切れない解釈に道筋を付けた。弱々しく見えるこの老人、いったい何者なのか。

この回には納谷さんと弁護士さんのアフタートークがあった。そこで弁護士さんが「日本語の有罪・無罪とは違う」と話していて、2015年のお芝居を一緒に観た法律の研究者が同じことを話していたことを思い出した。米国ではGuiltyかNot guiltyかで、Guiltyはたしかに有罪だが、Not guiltyは無罪ではなく「有罪ではない」という判断であり、それはイコール無罪ではない。深い。

いい原作、いい脚本、いい演出、いい舞台装置、そしていい役者さんが揃えば、当然ながら芝居は面白くなる。これには合理的な疑いはない。

上演時間:2時間4分
2022年8月17日14時
かでるホールにて

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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