シェイクスピアの詩人論とユートピアの皮肉  Compagnie “Belle mémoire”5th 『URAN』

作・演出 山口健太さん。
3人?の女性の視点から仮想と現実の間を巡る物語。

動画配信で観たのだが、やはり劇場で観たかった。同居家族が新型コロナウイルスに罹患し、予約をキャンセルせざるを得なかったのだ。上演期間中の感想ツイートをたどると、客入れや換気休憩中に映像を流したり客席に照明をあてる演出などがあったようで、それらは部屋の中では味わえないものだからだ。また、セリフが聞き取りにくかったり音が急に大きくなったりと映像特有の難点があり視聴に苦労した。映像をパソコンで観て、音はスマホからとり、耳に近づけたり遠ざけたりして対応した。苦労はしたが映像の良い所は繰り返し観ることができること。「今のシーンをもう一回!」と思ったら即座に戻れることが嬉しい。今作のように難解な物語であれば猶更だ。

詩人の目は、精妙な狂気のうちにめぐって、天上から地上へ、地上から天上へと打ち眺め、想像力がしられざる者の姿を生み出すにつれ、詩人のペンはその想像の事物に形を与え、なんの実体も持たぬ空想にその居場所と名前を与える。
『夏の夜の夢』5幕1場   

まだ配信期間中でもあり極力ネタバレを控えるため、ボクが連想したシェイクスピアを添えておく(上手く説明できるほど理解できていない)。仮想現実を仮想現実が包み込むような構成。何が現実か分からなくなり、「お前がラスボスかー!」と叫びたくなる展開からの後味悪いラストシーンでは絶句した。

「繋がりは絡まって縛りになるでしょう?」                          「認められるだけじゃダメなの。同じだけ否定されて繋がりに縛られることで人間は人格を形成できるの。」

「人間はポリス的動物である」とアリストテレスは言ったが、それは「人間は共同体を作る動物」という意味ではなく人間を完成させるためには共同体が必要だということである。キケロにいたっては「新しく国を建設すること、あるいはすでに建設された国を守ることほど、そこにおいて人間の徳が神意に近づくものはない」と『国家について(第1巻)』で述べている。「人間は生まれながらにして自由であるが、しかしいたるところで鉄鎖につながれている」というルソーの『社会契約論』はフランス革命に大きな影響を与えたと言われるが、革命の結果は大量の同胞殺戮であった。山口さんはさりげなくルソーの社会契約論を批判しているのかな?と思った。

ギリシャ神話をモチーフにしたり、個人的には哲学やシェイクスピアを連想したりと(三つの物語が絡み合うのも夏の夜の夢的?)思考が刺激されるのであるが、特筆すべきはベルメモアというカンパニーの総合力の高さだろう。クオリティーの高いオープニング映像、スマートな会話を役者がこなし、場面に合った(必要以上に尺を取らない)ダンスを音響や照明で更に盛り上げる。ひょっとしたら現在の札幌演劇界で長谷川時雨の指摘に最も適うのはベルメモアかもしれないと思う(勿論旧劇ではないのだが)。

「芝居は誰にでも出来るかもしれません。また表情なんぞも、熱心に練習したらば、じきに上手になるでせう、が、其の中で芸の人となりきるのは、天分でもありませうが、短い月日の修養では出来上がるものではありますまい。」
「踊りを知らなければ俳優になれないなんて、そんな馬鹿なことはない、といふのは尤もな説ですが、それは新劇といふ側の立場のことです。」
「私は自由劇場や文芸協会の舞台を見て、脚本にあらはれてゐる人物の、性格にはいつまでも長くあと迄考へさせられますが、芸からうけた感じは深くありません。それと違って、旧劇の方からは、脚本や、其の中の人物について深く考へないでも、芸の至妙に泣かされる時が多く、年月をへてからも、其の舞台の芸を思ひうかべる時があります。」
長谷川時雨 「有望なる歌舞伎劇」 『演芸画報』大正元年九月(読んでみたい方は道立図書館にあります)

さて、今作の舞台は車が空を飛び、仕事はAIがするユートピア。『ユートピア』と言えばトマス・モアを誰もが連想するだろう。ユートピア島についてモアに語るラファエル・ヒュトロダエウスは「天使」と「ばか話の大家」の意味で、『ユートピア』の正式名称は「社会の最善政体とユートピア新島についての楽しく有益な小著」である。ユートビア島を理想とは言っておらず、そこでは市長をアデモス(人民を持たざる者)と呼んでいたりと皮肉に満ちている。

「最新AIが作る創作フレンチのお店があるんです」
「それって本当に創作って言える?」

動画配信は10月9日(日)24:00まで。
皮肉の効いたベルメモアの世界を何度も味わってみてはいかがだろうか。先に書いたように後味は最高に悪いのだが・・・。

2022年9月11日(日)~

動画配信にて観劇

text by S・T

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