観客の自由度が高い ゴマに『天下一演劇祭』

脚本/演出 本澤貴史                                                                       「いずも」「高橋家にようこそ」「チェリーボーイズ」の短編三作品。

年齢を偽って小学4年生として生きる32歳の男と、本当の小学4年生との友情を描いた物語。                先日結婚した友人宅に改めてお祝いに行ったら、その妻が河童?だった物語。                          希少生物チェリーボーイ(梶原正樹)の一人が人間の女の子に恋をして、恋が実るように周りのチェリーボーイズが応援する物語。

「いずも」は運動面でも学力面でも全国一位の転校生いずも(高橋雲)が、実は32歳という在り得ない設定。バカバカしい笑いの中に年齢を超えた友情や「大人とは何ぞや?」と誰もが考えたことがあるであろう問いを投げかけてくる。いずもは友達を助けることが実年齢を認める形となってしまうのだが、年齢を偽った理由を明かすことなく姿を消す。それが観客の胸をより痛ませるのだ。みんな色々あるよねと。

全身赤いタイツにサクランボを模した被り物の「チェリーボーイズ」は何故?と質問されても説明できないのだが一番笑った。ああこれは明日筋肉痛だな腹筋、と思いながら涙を流して笑いました(ならなかったけど)。ただオチがもう少し何か欲しかったと思ったのだが、ツイッターで劇団怪獣無法地帯の棚田満さんはラストの場面を「あの妙な間のラスト」と一番褒めていて、玄人の見方は違うなと思った。

今回、一番の問題作は「高橋家にようこそ」だったと思う。高橋くん(えいと)の新妻(優美花)が実は河童(もしくは河童型宇宙人?)なのだが高橋くんは気が付いていない。ケーキと言われてキュウリを食べているのにもかかわらずにだ。劇場に充満するキュウリの臭いが笑いから恐怖へと観客を誘導していくようでもある。そして役者である「えいと」さんと、ジャーナリストである「鈴木エイト」氏がダブる。某宗教団体のニュースで連日テレビ出演の鈴木エイト氏が洗脳されていく物語のように思え戦慄が走る。本澤さん演じる友人の問いかけに洗脳が弱まるが、キュウリで叩くタンバリンの音に再洗脳されていく。その「えいと」さんの目は、まるで魚の目のようであった・・・。

TGRの劇団紹介では「演劇を通して伝えたいメッセージや芸術性はなに一つとしてありません!」というゴマにではあるが、観客が青春の一コマや人生そのもの、実生活においては「この人やべーやつ専門学校生?」など、観客に自由に何かを想起させる余白が作品の味となっているように思える(簡素ともいえる舞台装置や衣装さえも奥深さを感じさせる、ある意味)。

ベルクソンの『笑い』を訳した林達夫氏は「笑いの本質は下品である」と言ったらしい。ボクはこの先、この意味を「ゴマに」を観ながら考えていくのだろうと思った。

2022年11月20日(日)14:00

演劇専用小劇場BLOCHにて観劇

text by S・T

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