年忘れ大笑いのつもりだったのだが 劇団怪獣無法地帯『渡る世間に陰陽師』

『年内最後に大笑いしたい』との期待を胸にコンカリーニョに足を運んだ。
 このお芝居は、平安時代の陰陽師、安倍晴明と、鬼の酒天童子との戦いの物語である。しかも、ひょんなことから現代にタイムスリップした安倍晴明が、現代社会で日本転覆を謀ろうとする酒天童子との戦いの物語である。

 無法地帯のお芝居は今回が3回目。少し早めに会場に入ると、これまでもそうであったように、棚田さんが、舞台から観客に前説していた。無法地帯では前説が重要である。安倍晴明も酒天童子も名前ぐらいは知っていても、どんな人物なのかまでは知らなかった。そしてお芝居の一番最後にちょっとだけ登場する蘆屋道満はまったく名前を知らなかっただけに棚田さんの前説が役に立ったのはいうまでもない。

 前に観た『ねお里見八犬伝』と同じように、登場人物の衣装もよくできていたし、小道具や照明も素晴らしかった。何より、演出が面白かった。印象に残っているのは、現代社会にタイムスリップした安倍晴明と警官(ポリス)との会話中の場面。後ろで舞台袖左右から通行人がひっきりなしに歩いている。つまりは、往来が激しいところで会話しているということだ。
 また、地底に落ちていく場面も、あたかもトイレに座って地底に向かっていくような錯覚を覚えた。これは演出とともに音響効果のなせるワザだと思う。また、『ねお里見八犬伝』と同様、殺陣のシーンでは、刀と刀がぶつかり合う音が見事にマッチしていた。殺陣に合わせて音を出しているらしいが、音響さん、スゴい。

 主役は、安倍晴明役に小川眞樹、安倍晴明が憑依した加茂晴明(はるあき)役に丹生尋基、カメラマン花山由利子役に新井田琴江、警官相馬淳役に足達泰雅。この4名を含めて17名が出演していて、しかも一人で二役も三役もこなしていて実にバラエティに富んでいた。無法地帯のお芝居は、登場人物が多いことも楽しめる要因。
 そういえば、酒天童子を演じた長流三平、さすがだった。長流さんが出演したお芝居は何作品も観ているが、声も通り、何より殺気さえ覚えるような演技だった。
 ゲストの小林エレキ。最後の場面で登場していて、ホテルのフロントマン役の棚田さんを妖術で操る役どころ(蘆屋道満)だった。棚田さんの前説で聞いてこの役どころも心得ていたので、『これから何が始まるのか』と興味津々だったが、そこがエンディングだった。ちょっと出番が少なかったのではと感じたが、もしかして棚田さん、現代社会を舞台に、安倍晴明と蘆屋道満が対決する続編を考えているのか、エレキさん主演で。

 舞台装置もよく、演出も面白く、役者さんたちも上手だったにもかかわらず、年忘れの大笑いとはならなかったのが悔やまれる。これは、このお芝居そのものの問題ではなく、単に私の問題かもしれない。つまりは、笑いのツボにはまらなかったわけだ。それぞれのシーンに、小さな笑いを取るセリフや仕掛けがちりばめられていたので、その都度クスリとした。奇想天外な展開もあって驚くことはあっても、大爆笑といえるところまではいかなかった。次に期待。

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2022年12月24日 13時
上演時間:1時間50分(途中10分間の空気入れ換え時間あり)
コンカリーニョにて
劇団怪獣無法地帯『渡る世間に陰陽師』(脚本・演出:棚田満)

text by 熊喰人(ゲスト投稿)

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