山田太一 追悼公演 座・れら『林の中のナポリ』

12月1日の舞台初日、山田太一の訃報が知らされた。「座・れら」第19回公演『林の中のナポリ』。脚本は山田太一だ。

倉本聰、向田邦子らとともにテレビドラマ黄金期を作った脚本家。その死はニュースになり、追悼としていくつかの作品も上映されるだろう。そして札幌で行われたこの公演も、期せずして追悼公演という形になった。

「座・れら」と山田太一の関係は、「座・れら」の演劇誌「風 第13」号(2023年12月1日発行)に詳しく書かれているので、興味がある人は読んでほしい。長年の交流が記されている。

『林の中のナポリ』は2007年に劇団民芸に書き下ろした脚本で、『二人の長い影』とともに1冊の本にまとまっている(『二人の長い影/林の中のナポリ』新日本出版社刊。『二人の長い影』は劇団新劇場が2019年、ことにパトスで公演)。

町外れの、林の中にあるペンション。夫婦とその娘で切り盛りしているが、夫の暗い態度がネットで叩かれて評判が落ちてしまっている。妻は文句を並べたて、客前にけっして出るなとクギを刺す。揉めてる最中、娘が客を拾ってやって来る。大きなキャリーケースとひとりの老婆。貴重な客だとかいがいしく接客するが、老婆の様子はどこかおかしくて……。

山田太一の創作活動において最晩年に位置するこの作品もまた、山田太一らしくていねいなセリフの積み重ねで、人々の感情やこれまでの人生を浮き彫りにする。

だれしもが悩み、苦しむその姿を、するどいがあたたかいまなざしで見つめ、ひとりの老いた女性の姿と前向きな言葉によって、人生を肯定しているように見えた。

『林の中のナポリ』と『二人の長い影』は、劇団民芸ではどちらも南風洋子が主演した。おそらく当て書きだったのだろう。年を重ねた女性を描くふたつの劇において最重要の役だ。今回の『林の中のナポリ』では竹江維子が演じていたのだが、これが実にすばらしかった。

ときにおかしな言動を見せ、「ボケてるの?」と心配される老女を軽やかに、しかし現実的に演じた。地に足の着いた奇妙さ、とでもいうべき不思議な吸引力。観客を物語に引き込んでいき、終盤、その行くすえにすがすがしさを感じた。

たくさん観ているわけではないが、山田太一の静謐で奥行きのある脚本は「座・れら」の清潔感ある舞台にあっているのかもしれない。清潔感というのも変な表現だが、臆せずシンプルに、ただあるものを、そこから浮かびあがってくるものを描き出そうとする姿勢が、雑味のない清潔感のある舞台のように感じられるのだ。

もうひとり、その清潔感のようなものを生み出している存在があって、それが齋藤雅彰だ。暗いから客前に顔を出すなと言われてる夫を演じているのだが、ぼくとつとしてたどたどしい、なにか人生がうまく回っていない男を好演した。愛嬌のない面白みに欠けた男のようだが、どこか応援したくなる、そういう人間を舞台上に存在させていた。

さて僕が観たのは舞台初日で、まだ全体的にたどたどしさがあった。特に終盤、人数が増えてからの場面はセリフのやりとりがうまく物語に乗っていなかった。本来はもっとしゃきしゃきと進んでいくはずだったのだろう。

数日前にネットで、上演時間が20分延びることがアナウンスされていたが、20分短く、もっとテンポある展開が理想だったのだろう。セリフのやりとりは2日目以降こなれていったはずだから、改善されたことを望むばかりだ。

ともあれラストを観終えて、僕は目の奥がジンと熱くなった。すてきな舞台を観せてもらったなと思った。

山田太一の脚本は残る。残りつづける。またいつか、彼の作品が観られることを願って。

 

2023年12月1日(金) 札幌市こどもの劇場やまびこ座

text by 島崎町

SNSでもご購読できます。